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実例Q&A

任意後見監督人の代理権の範囲【Q&A №659】

2019年8月22日

 

【質問の要旨】

死亡した母の遺言書があり、すべての財産を兄が相続する。

相談者は兄に遺留分減殺請求中。

父の任意後見人が兄。任意後見監督弁護士がついている。

兄に対する父の遺留分減殺請求について、後見監督弁護士にお願いしていたが、「任意後見契約書に遺留分減殺請求が載っていないからできない」と言われた。

後見監督弁護士による父の遺留分減殺請求ができないのなら、誰に依頼すればいいか?

【ご質問内容】

母は2019年末に死亡。

相続人は父と兄と私(弟)。

母が遺言を3年前に作成し、すべての財産を兄に相続することが判明。

私は兄に遺留分減殺請求中。

父も3年前に任意後見人契約を兄と結んでおり、今年の4月末に受理されてしまった。

父には任意後見監督弁護士がついている。

父の遺留分請求は、任意後見第7条第4項の利益相反により、後見監督の弁護士にお願いしていた。

しかし監督弁護士によると、最初は検討していたが、「任意後見契約書の代理権目録が第1号様式で、これに遺留分減殺請求が載っていないからできない。第2号様式による代理権目録が必要。」と意見が変わってきた。

家裁からの指示らしい。

家裁に根拠を問い合わせると、「新成年後見制度の解説」の任意後見制度、監督以外の職務という項目(P256~257)。

本当だろうか?

公証役場の意見では、任意後見契約公正証書は雛形がきまっており、1つ1つ個別に作成するものではない。

個別なものを作成すると法務局から注意される。

代理権目録の6に訴訟行為(民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項を含む)に関する事項、7に「以上の各事項に関する一切の事項」と書いてある。

訴訟行為が認められるのだから、遺留分減殺請求は7の中に含まれるはずだと。

そしてもし、後見人監督弁護士が父の遺留分請求をできないなら、どなたに頼めばよいのか?

兄が任意後見の際に提出した診断書の内容は、謄写申請却下されたので不明。

 

 
(とりあえず匿名で)

 ※敬称略とさせていただきます。

 

【任意後見人と本人との利益が相反する場合は、任意後見監督人が本人を代表する】

今回の事案においては、母がすべての財産を兄に相続させるとの遺言を残しているため、父の立場にたてば、兄に対して遺留分減殺請求をすべき事案です。

ただ、父の任意後見人は兄であり、兄と父は、利害が対立してしまっています。

このように、任意後見人と本人との間で利益が相反した場合には、任意後見人に代わって、任意後見監督人が本人の代表者となることができます。

任意後見監督人は、通常は、任意後見人がおかしなことをしないように監督する役割をしているのですが、今回の事案のように、本人と任意後見人との利益が相反している事案では、上記のとおり、本人の代表者になることができるのです。

【任意後見人や任意後見監督人は、契約で決めた代理権しかない】

任意後見契約という制度は、本人の意思能力が備わっている間に、自分の意思能力が衰えた場合に備えて、信頼できる人に代理権を付与する契約であり、どのような範囲で代理権を与えるかは、本人が自由に定めることができます。

そのため、本人が契約で定めた範囲内でしか、任意後見人や任意後見監督人は代理権を有することができません。

通常は、「遺産分割の協議、遺留分減殺請求、相続放棄、限定承認に関する事項」というような形で代理権目録に入れておくことが多いですが、父が兄と任意後見契約をした際に、上記のような項目を入れていなければ、基本的には、任意後見人や任意後見監督人に遺留分減殺請求をする権利はないということになります。

訴訟行為が代理権の範囲に含まれているとのことですが、そうであるのなら、任意後見監督人の弁護士にその旨を伝えて、遺留分減殺請求の訴訟をするよう求めるという手段もあります。

ただ、すべての訴訟行為について包括的に代理権を与えるというのは範囲が広範に過ぎるようにも思いますので、そのような内容になっているのかは確認が必要です。

また、訴訟行為が代理権の範囲に含まれているとのことですが、遺留分減殺請求という意思表示は、訴訟行為の前段階となる意思表示であるので、訴訟行為には含まれないものと思われます。

【任意後見監督人が動かなければ、成年後見人を選任する】

今回、任意後見監督人が動こうとしない、もしくは、代理権がなく動けないと言うのであれば、あなたとしては、家庭裁判所に対し、法定後見(成年後見人)の申し立てをすべきです。

成年後見人であれば、遺留分減殺請求を行う権限を有しており、父の利益になることですので、請求をする可能性が高いと思われます。

ただ、通常は請求をすると思われますが、成年後見人であれば請求をしなければならないというわけではないため、最終的には成年後見人の判断ということになります。

そのため、出来る限り成年後見人に動いてもらうために、成年後見の申し立てをする段階から、申立書に、「父のために遺留分減殺請求をしてもらいたいという事情があって申立をしている」ということを明示しておいたほうがよいでしょう。

なお、遺留分減殺請求の時効は、相続の開始を知ったときから1年ですので、選任の申し立てをしているうちに時効期間が過ぎてしまうかもしれませんが、

この点は、最高裁において、「時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は、完成しないと解するのが相当である」と判断されており、

時効満了前に申立をすれば、後に成年後見人が就いてから6か月を経過するまでは、時効は完成しないとの判断がなされていますので、その点については心配はいりません。

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