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実例Q&A

未分割の土地を含む遺言分割指定がある時【Q&A №585】

2017年10月10日


【質問の要旨】

被相続人が未分割の配偶者の不動産を子である相続人に譲ると遺言したが、裁判所ではどう判断されるのか?

【ご質問内容】

被相続人の遺言に、先に死亡したその配偶者との未分割状態の共有の自宅を、3相続人(子供)中のAに引き続き住めるよう譲るとあり、法務局ではまず、配偶者の持ち分9分の6を法定分割した後、被相続人の持ち分9分の6をAに登記すると云う事でした。

しかし、自宅が住所不銘記で却下、家裁では遺言分割の承諾が他の相続人B.Cから得られず、審判できないと云われ、取り下げさせられました。

最終日全員の前に、裁判官が表れ(陪審員の要請があったと思わせる)ちらりと遺言に目を通し、配偶者の未分割分は直接3人の相続人に譲られると断定しました。

法務局の説明では、全員の承諾のもとでは可能である。

つまり遺言分割ではなく協議書による分割と解釈したので、家裁の裁判官の云う事には釈然としません。

今後地方裁判も視野にこの点をはっきりさせて置きたいので宜しくお願いします。

(fumimasa)


【事案の整理・・父が死亡した後、その相続登記前に母が死亡したケースと理解】

まず、事案の内容を整理します。

(以下の要約は、質問からは直接は読み取れないものの、弁護士3名がほぼこのような事実関係を前提にしての質問であろうと考えた内容を記載しております)

① 先に父(配偶者)の方が死亡し、遺産である不動産の相続登記をしないうちに母(被相続人)が亡くなった。

② その母は「未分割状態の共有の自宅を、3相続人(子供)中のAに引き続き住めるよう譲る」と遺言した。

③ Aは、法務局で遺言に基づいて登記をしてもらおうとしたが、遺言書には自宅不動産の所在地等の記載がなかったため、このままでは物件が特定しておらず、登記はできないと言われた。

④ そのため、家裁に調停を申し立てたが、他の相続人B、Cの承諾が得られず、取り下げという結果になった。

と仮定して、説明をしていきます。

なお、今回の質問には登記に関する部分が含まれています。

わかる限度で説明はしていきますが、念のために登記の専門家である司法書士にも確認されるといいでしょう。

【相次いで相続が発生した場合のそれぞれの相続分】

前項で記載したとおりの事実関係であると仮定すると、相続の経過は以下のとおりとなります。

①まず、父が亡くなったことにより、自宅のうち父の持分であった9分の6が、各相続人に相続されます。

遺言書がなく、遺産分割協議もなされていないのだとすれば、法定相続分に従い、母が9分の3、A~Cが各9分の1を相続します。

②次に母が亡くなり、「未分割状態の共有の自宅を、3相続人(子供)中のAに引き続き住めるよう譲る」との遺言があったとのことですので、母の持分はAにすべて遺贈されたのであれば、母の自宅持分(もともと有していた9分の3と、父から相続した9分の3の合計である9分の6)をAが相続します。

結局、自宅はAが9分の7、B及びCが9分の1という共有状態になるということになります。

【自宅が特定していない点についての法務局の見解について】

ただ、遺言では前記のとおり、自宅不動産の所在地が明記されていないことから、法務局はこの遺言では不動産が特定されていないので、このままでは登記はできないと言われたのだと思われます。

その上で、もし登記をしたいのなら、法務局としては

① 遺言に記載された自宅とは被相続人が共有持分を有している自宅であることを判決で確定してもらうか、

② 相続人全員が遺言書の自宅とは、被相続人が共有持ち分を有している自宅であることを前提で遺産分割協議する。

のどちらかの方策を取れば、遺言の不動産が特定しないという点が解決し、登記が可能になるとの見解だったろうと思われます。

【遺言ではAが自宅全部を相続することはできない】

母の遺言の内容がはっきりはしませんが、仮にその内容が《Aの居住している自宅すべてをAに相続させる》というような内容であったとしても、そもそも母の持分は9分の6でしかなく、未分割のまま放置されていたからといって、母の自宅の持分が増えるわけではありませんので、Aが自宅全部を取得することできません。

しかし、相続人全員の合意がある場合には、遺言によって指定された分割方法と異なる遺産分割をすることが可能です。

そのため、Aが自宅を単独相続(全部をAの所有に)したければ、他のB及びCの同意を得て、《自宅名義はAの単独名義にするが、その代わりに代償金等を他の兄弟に支払う》等の合意をすれば、その合意の効力として自宅をAの単独名義にすることが可能です。

【裁判所が遺産分割の審判をしなかった理由】

次に、裁判官が、「配偶者の未分割分(父の持ち分)は直接3人の相続人に譲られると断定した」という点を考えてみましょう。

Aとしては、母の遺言には自宅全部をAに相続させると記載されているため、父の遺産の自宅全部の相続を主張したのに対して、《Aが全部取得するようなことはない。父の持分が、法定相続分に従って子供らに9分の1ずつ相続されることについては、全員の同意がない以上、法的に動かしようがない》ということを言いたかったものと推測されます。

B及びCから、自宅を全てAに譲るという内容で同意が得られず、遺産分割協議がまとまらなければ、遺言書の内容を実行するしかありません。

しかし、家裁の審判では、遺言書の内容を実行せよという命令を出すことはできず、地裁で裁判をする必要があります。

そのため、家庭裁判所は「審判できない」との判断をし、調停を取り下げさせたものと思われます。

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