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実例Q&A

相続法改正10 相続財産に対する差押の効果見直し

2019年9月17日

【父に借金があった場合に問題となる】

相続は財産も承継する代わりに、借金など負の財産(相続債務)も承継します。

今回はこの相続債務に関する法改正です。

相続債務というのは、亡くなったお父さんの負債、たとえば亡くなったお父さんに多額の借金があった場合、というイメージで捉えていただくとよいでしょう。

【知人に借金をしていた父の例】

今回の改正は非常に難しいため、参考ケースとして

・死亡した父は自宅不動産を所有していた

・父は、「自宅を長男に相続させる」と書いた遺言を残して死亡した。

・相続人は長男Aと二男Bの2名のみ

・その後、父は知人Xに1000万円の借金をしていたことが判明した。

という事例をベースに改正法を説明していきます。

【従来、二男の相続分は差押えできなかった】

従来の法律では、父が残した借金は次のような結果になっていました。

① 父の知人Xは、父に1000万円を貸しました。
 その際、父は「もしも返済しなかったら、自宅を差し押さえれば回収できる」と知人のXに説明していました。

② その後、父が死亡。

③ 借金を返してほしい知人Xは、長男Aと二男Bにそれぞれ500万円ずつ、借金の返済を請求し、父名義の自宅不動産を差し押さえました。

④ これに対し、遺言で自宅を相続した長男Aは、遺言を使って登記をA名義に変更しました(相続登記)。

⑤ すると裁判所から「この不動産は父の財産なので本来なら長男Aと二男Bとが共有する財産だったが、今回は後から遺言でA名義になった。そのため、二男Bの法定相続分はゼロになった。たとえ身内でも、二男Bに請求する借金で、別人であるA名義の財産を差し押さえることはできない。」と判断され、二男Bが引き継いだ借金(2分の1で500万円)を使って差し押さえをした自宅の相続分(2分の1)は差し押さえできませんでした。

⑥ その結果、知人Xは自宅を差し押さえても借金を返してもらえませんでした。
 
つまり、借金を返してほしい知人Xは、「自宅を差し押さえれば回収できる」と思って差し押さえをしたのに、後から遺言で長男名義にされると、二男に請求した金額(2分の1で500万円)の限度で差し押さえが無効になるということです。

自宅の売却代金の半分は借金返済に回してもらえない、という結果になってしまっていたのです。

このような従来の法律に問題があり、
「遺言があるかどうかは他人にはわからない。遺産である不動産を差し押さえた後に遺言が出てきて、自宅の名義を長男に変更されたら差し押さえが空振りに終わる、という法律は変えてほしい」という問題点が指摘されていました。

【改正後は二男の相続分も差し押さえが可能】

そこで、改正法では次のようになりました。

(改正後のルール)
「相続させる」旨の遺言があっても、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を具備しなければ、父の債権者など第三者に対抗できない。

上記は法律上の表現で難しいと思いますので説明しますと、遺言で自宅不動産をもらう長男Aは、知人Xより先に相続登記をしておかないと知人Xの差し押さえで長男A自身の法定相続分(2分の1)を超える部分(=二男Bの法定相続分)の差し押さえが優先することになったのです。

これを今回のケースで言えば、
長男Aが自宅をA名義に変更(相続登記)せず放置しているうちに知人Xが父の自宅を差し押さえた場合、長男Aの法定相続分を超える部分(=二男Bの法定相続分)は
(改正前)・・長男Aが優先し、(二男Bの法定相続分の)差し押さえは認められない
(改正後)・・・知人Xが優先し、(二男Bの法定相続分の)差し押さえが認められる。

「遺言で長男Aの財産になった」という反論は通用しなくなります。

その結果、長男Aの法定相続分だけでなく、二男Bの法定相続分(自宅の2分の1)も有効に差し押さえられてしまうことになります。

逆に言えば、債権者である知人Xは、長男Aの相続登記より先に差し押さえをすれば、長男の法定相続分(2分の1)に加え、二男の法定相続分(2分の1)も差し押さえることができ、自宅の売却代金全額から借金を返してもらえることになったのです。

【「○○を相続させる」という遺言がある場合は早急に登記が必要】

このように、自宅などの相続財産を「相続させる」旨の遺言で財産を相続した長男Aは、早急に登記をしておかないと、父にお金を貸していた知人のXのような債権者から父の財産を差し押さえられてしまう、というリスクがあることになりました。

そのため、今後は遺言がある場合に早急に名義変更(相続登記)をしておかないと、せっかく相続することができた財産(自宅不動産など)も債権者の差し押さえが優先してしまう、ということを覚えておく必要があります。

【新制度は令和元年7月1日から施行】

この改正法は、令和元年(2019年)7月1日から施行されています。

つまり、同日以降に開始(死亡)した相続については、早急に遺言の有無を確認して相続登記を行っておかないと、債権者により法定相続分を超える持分の差し押さえを受ける可能性がある、ということになります。

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