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実例Q&A

贈与と認められるためには【Q&A781】

2022年9月28日

【質問の要旨】

・被相続人は存命

・口頭で孫たちにと、通帳と印鑑キャッシュカードを渡された

・被相続人が死亡する1月ほど前におろした

 

・贈与にあたるのか

・または、相続財産になるのか

 

・被相続人が死亡

・生前、行政書士に遺言書作成を依頼していたが、作成中に亡くなった

・言書が作成されてない以上、相続話し合いの有利な方向にはならないのか

 

 

 

【回答の要旨】

・誰に対する贈与か、まず問題になる。

・『孫たちに使ってくれ』と口頭で言われたという事実があったとしても、それを証明できなければ、相続の話し合いを有利に運ぶのが難しい

・遺言書としては無効だが、死因贈与として、話し合いで有利に利用できるかもしれない。

 

 

①被相続人が存命中に『孫たちに使ってくれ』と口頭で言われ、通帳と印鑑、キャッシュカードを渡され、降ろしたお金は、贈与となるのか。又は、死亡1か月ほど前に降ろしてるので、相続財産になってしまうのか。

②遺言書作成手続き中に被相続人が死亡。行政書士事務所にも本人が出向いて相談していたこと、意志を伝えていたとしても、遺言書が作成されてない以上、相続話し合いの有利な方向にはならないのか。

【ニックネーム】

ゆうしゅんママ

 

【回答】

1 誰に対する贈与か

被相続人が相談者に対して、『孫たちに使ってくれ』と言われたとのことですが、果たして誰に対する贈与であるかが、まず問題になります。

なぜなら、被相続人が、相続人である相談者に贈与する意思で言った可能性と、孫たちに贈与するために言った、両方の可能性が考えられるからです。

①相続人である相談者に贈与と認められる場合

相続人に対する贈与は、その金額が大きい場合には、遺産分割の前払いとしての「特別受益」に該当する可能性があります。

仮に、特別受益にあたれば、その分だけ相談者の遺産分割における取り分は少なくなります。

②孫たちへの贈与と認められる場合

孫たちは、相続人にあたりませんから、孫たちに対する贈与は、特別受益に該当しません。

 

2 贈与の為に、お金を払い戻したといえるか

次に、相談者が、被相続人の口座から払い戻したお金が、贈与の為に払い戻されたといえるかが、問題となります。

預金の払い戻し権限は預金者にありますので、預金者である被相続人が払い戻すのは何の問題もありません。

他方で、預金者以外の者が、預金を引き出した場合には、預金の引き出しが、預金者である被相続人の意思に基づくものでなければ、不正出金となります。

かりに、被相続人の意思とは関係なく引き出しているものとなれば、被相続人は勝手に預金を引き出した者に対して、不当利得返還請求権という債権を有し、この債権が相続の対象となります。

なお、不正出金されたお金は、すでに引き出されているので相続財産になりません。

 

3 孫への贈与であると主張できるかどうかは、証拠も見る必要がある

本件の預金の引き出しが孫への贈与かどうかは、具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。

その際、証拠がどこまで存在するかということを意識される必要があります。

『孫たちに使ってくれ』と口頭で言われたという事実があったとしても、それを証明できなければ、相続の話し合いを有利に運ぶのが難しいでしょう。

そのことは、調停や裁判で決着する場合も同じです。

したがって、贈与があったことを直接いえなくても、被相続人が生前に書き残した手紙や、孫が贈与を受ける理由の存在など、間接的に孫への贈与があったことを推認できるような証拠をもとに、主張されるかどうか、検討されるとよいでしょう。

逆に、これらの証拠がない場合には、他の相続人から不正出金であるとして、民事責任を追及される可能性もあります。

そうでなくとも、相談者に対する贈与と認めざるを得ないでしょう。

 

4 遺言書としては無効だが、死因贈与として利用できるかもしれない

本件では、遺言書が作成されていない以上、法的に遺言の効力を主張することはできません。

しかし、相談者や孫たちが、被相続人から遺言の内容を聞かされており、その内容を了解していたのであれば、死因贈与として、主張できるかもしれません。

死因贈与とは、贈与する人の死亡によって効力が生じる贈与であり、贈与する人と贈与される人との合意によって、成立します。

本件では、被相続人が自ら行政書士事務所に赴いて、遺言の作成について相談をされていたという経緯があります。

したがって、被相続人が持ち込んだ遺言書の原稿や、行政書士が被相続人から遺言の内容を聞き取って作成した遺言書案などが残っていれば、死因贈与をうかがわせる証拠として、他の相続人を説得する材料に、利用できるかもしれません。

(弁護士 岡本英樹)

 

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