【質問の要旨】
・妹が認知症の父所有の土地を無断で売買し、契約書も偽造していた
・この契約を無効にし、妹を告発したい
【ご質問内容】
私は、父の相続人です。
父が生前土地を売る契約をしていました。
父は当時認知症で、土地の売買契約書は父の妹が偽造して作成していました。
この契約を解除できないかのご相談です。
その土地は、現状地目とも田で、買い主がマンションを建てる目的で購入しました。
契約当時認知機能検査MMSEは10でした。
又、父の妹を有印私文書偽造罪で告発は出来ないでしょうか。
よろしくお願い致します。
【契約の無効主張と偽造罪での告訴】
今回のご相談は、
① 土地売買の契約書の偽造問題
② 認知症の父(と妹)が行った土地売買契約の解除
③ 書類を偽造した妹の刑事告発
という2つの問題がありますので、順に回答していきます。
【①契約書の偽造問題は無効を主張すべき】
ご指摘の通り、父の妹が父の署名押印を偽造したのであれば、その契約は無効です。
おそらくは父本人しか取得できないはずの印鑑証明書も提出されているでしょうし、「父の同意を得ていた」という反論がなされると思いますので、無効の立証はそう簡単ではありませんが、
偽造したとされる売買契約書を確認し、
ⅰ)筆跡が父のものではなく妹の筆跡であること
ⅱ)署名押印(代筆や委任)について父の意思確認が行われず、父の意思がなんら反映されていないこと
を立証すれば、契約が無効であることを主張できるでしょう。
※「解除」と「無効」とは、厳密には法的根拠が異なります。
ただ、契約の効果が失われ、父の土地が返還される意味で無効と解除は共通していますので、本回答をお読みいただくうえで違いを深く気にしていただく必要はありません。
【②認知症による無効を証明するポイント】
次に、認知症による契約無効を主張立証するポイントは、契約当時における父の意思能力の程度です。
今回、MMSE(ミニメンタルステート検査)で10点という低い点数が出ていますので、検査の時点で判断能力が著しく衰えていたとされる可能性は十分にあります。
裁判所ではこれに加えて
・父の認知症の進行程度
・判断能力の状況
これらを病院や介護施設から取り寄せた記録(カルテや看護記録)で分析します。その結果、売買契約当時、父が契約の意味を理解し、印鑑証明書を自身の判断で取り寄せ(あるいは妹に依頼)できたかどうかを確認していきます。
そのほか、土地売買の登記手続を行った司法書士からも事情を聞き
・契約時における本人確認の有無や父の状況
・当時父が署名押印した(とされる)書類の筆跡
なども確認し、父がどのように関与したのかを確認することが必要です。
なお、あまりに昔の書類の場合、法務局や司法書士も書類を保存していないことがありますので、ご注意ください。
【告訴と代金の返還について】
本件では有印私文書偽造罪のほか、買主の方に対する詐欺罪が成立する可能性もあります。
もっとも、警察はこういった親族間での問題になかなか立ち入らず、実際に立件する可能性は極めて低いのが現状です。
これに対して、土地の買主が詐欺や私文書偽造を理由に告訴すれば警察も動く可能性がありますが、買主は無事に土地を手に入れており、特に損害はありません。
そのため、買主の方が詐欺だとして告訴に動くことは考えにくいでしょう。
なお、土地の売買契約が無効であれば、土地が返還される代わりに(当然ですが)父(あるいは妹)が受け取った売買代金を買主の方に返還しなければなりません。この点にはご注意ください。