【質問の要旨】
認知症との診断書がある場合、遺言は無効か
【ご質問内容】
姉が、母を連れて、認知症の専門医のところに行き、26年9月
その診断結果が、
MMSE 29 17(母の数値) 5
1日常の意思決定を行うなめの認知能力
見守りが必要
2 自分の意思の伝達能力
具体的な要求に限られる トイレ食事とか
になってました。
それで、姉がそれをもとに、成年後見制度を申請しようとしたのですが、結局しませんでした。
母は、認知症でしたが、買物もでき、自分で判断できる状態で、この診断書とだいぶ、ちがってました。
そして、26年11月に「すべての財産を私に譲る」、という遺言書をかきました。
28年3月
母は、延命治療をやるかどうか聞かれたとき、やらない、といい、おおきな病院に転院しようとしたのですが、その時の紹介状には、(一般医)「軽度の認知症であるが、日常会話もでき、判断能力はある」とかかれてました。
転院はしなかったのですが、このような状態の場合、遺言書はゆうこうでしょうか?
遺言状を執行した場合、姉が認知症の専門医の、26年9がつの診断書をたてに、遺言無効の訴えをおこしそうなので。
成年後見制度を利用できるような状態の場合だと、遺言は無効になるのでしょうか?
【認知症でもすべての遺言が無効ではない】
認知症も程度は軽度のものから重度のものまで様々です。
軽度の認知症の場合には遺言をする能力が認められることがあります。
仮に、成年被後見人がついた場合でも、その方が一時的に判断能力(意思能力)を回復した場合には、医師2名以上の立ち会いをし、一定の方式を条件に遺言を有効とする制度も認められています(成年被後見人の遺言制度 民法973条)。
従って、認知症だからといって、すべての遺言が認められないわけではありません。
【認知症の程度を判断する基準・・MMSEと長谷川式認知スケール】
判断能力を判定するものとして、長谷川式認知スケールがあります。
このテストは、30点満点で認知症の程度を示すテストであり、日本で多く採用されています。
今回、認知症専門医で検査されたMMSE(ミニメンタルステート検査の略称)というのは、長谷川式にはない図形検査や自発的に文書を書かせるような質問も存在しますが、検査の年月日や場所等の質問をする等、長谷川式と同じ部分も多いです。
長谷川式と同じく30点満点であることや上記のように質問内容がほとんど重なっていることなどから見て、裁判実務でも長谷川式認知スケールとほぼ同様の扱いがなされるテストと考えていいでしょう。
【長谷川式では10点前後が分かれ目】
これまでの裁判例を見ると、長谷川式認知スケールについては10点あたりが遺言能力の境目になりそうです。
(この点については【コラム】意思能力と長谷川式認知スケールに関する判例の紹介および【長谷川式認知スケールと意思能力についての裁判例一覧表】をご参照ください。)
お母さんの検査結果がいくらなのか、質問ではわかりにくいですが、仮に17であれば遺言するに足る判断能力がないとは言えない可能性が高いです。
また、5であれば、よほどのことがない限り遺言能力がない可能性が高いという結論になるでしょう。
【紹介状の記載から見た場合は判断能力がありそうだが・・】
転院の際の紹介状には「軽度の認知症ではあるが、日常会話はでき、判断能力はある」との記載があるということですので、その約1年半前の遺言書作成時、母には遺言を作ることが可能な判断能力があったように思われます。
ただ、その際の生活状況や医療記録、他に行った検査を確認することも必要ですし、何よりMMSEで5点だとされたとすればその後に判断能力が回復したことになるため、その理由の説明も必要でしょう。
(たとえば病院が嫌いな方は、半ば無理矢理病院に連れて行かれて実施されたテストで、医師の質問にきちんと答えなかったために、たまたま低い点数になってしまった、という事情が見つかることもあります。)
いずれにせよ、認知症の診断があってもすべての遺言が無効になるわけではなく、ケースバイケースと言わざるを得ません。
そのため、遺言が有効か否かは、どの時点で認知症のテストをしたのか、どのような検査結果が出たのか、また、入院しているような場合にはどのような言動をしていたのかをカルテや看護記録から探る等、事実を確認して、その結果を総合して判断をしていくことになるでしょう。