【質問の要旨】
夫が死亡し、養女が夫の生命保険金の遺産分割を求めているが、養女に生命保険金を支払う必要があるのか。
【ご質問内容】
先日夫が亡くなりました。
夫には先妻との間に子がないため養女をもらっています。
養女は早くに結婚し家をでています。
その後に後妻に入りました。
夫が保険をかけ死亡受取人が妻になっています。
養女が保険金の遺産分割を要求しています。
その他にも夫名義財産がありそれは半分にすることになっています。
この場合養女に支払わないといけないのでしょうか?
【生命保険金は遺産分割の対象としないのが原則】
生命保険は原則として遺産ではないものとして扱われます。これは相続手続の実務でも通例ですし、裁判所の判例でもあります。
その理由は、相続というのは亡くなった人が有していた権利を引き継ぐものだが、死亡保険金は死亡前には発生しないので亡くなった人自身がもらうことは絶対にできません。そのため死亡保険金は「亡くなった人が有していた権利」ではない、というところにあります。
したがって、生命保険金は受取人であるあなたが全額を取得してよく、養女の要求に応じる必要はありません。保険金を除外したその他の遺産について養女と遺産分割協議をすることで足ります。
【例外として遺産に組み込む場合もある】
ただ、保険金額と遺産総額とを比較した場合、あなたが保険金を全額受け取ることが相続人間で著しく不公平となる場合には例外的に遺産の中に持ち戻されてしまい、遺産分割の対象となる場合があります。
今回のご相談のケースでは遺産総額がわかりませんが、たとえば保険金以外には何も遺産がない、あるいは保険金額が他の遺産額に比べて圧倒的に大きいなどの事情があった場合には、遺産に持ち戻される場合もあるでしょう(当ブログQ&A №298 もご参照ください)。
【著しく不公平かどうかの判断材料】
過去の裁判例では、生命保険金(約5150万円)が遺産総額(約8400万円)の約60%程度もあった場合には、生命保険金を遺産に持ち戻したものがあります。
ただ、生命保険金と遺産総額との比較だけでなく、
・保険金を受け取った人物(あなた)と夫との婚姻生活が長いかどうか
・あなたが被相続人の介護等をどの程度していたのか
・養女が家を出た後、養女と父(相談者の夫)との音信・交流がどの程度あったか
・その他、養女やあなたの生活実態等
などという点も踏まえ、あなたが保険金全額を受け取ることが著しい不公平になる場合、裁判所は生命保険金も遺産の一部として組み込んで遺産分割を行います。
以上の通り、生命保険は原則として遺産には含まれませんが、上記のような例外はありますのでご留意ください。