【質問の要旨】
義理の母が、認知症の父の財産を取ろうとしている。
離婚以外で二人を引き離し、父を保護する方法はないか。
また、認知症の診断が出ている父が名義変更をしても無効ではないか。
【ご質問内容】
私の父が認知症を患い介護認定も出てるのに関わらず再婚した義理の母が食事もろくに与えず父を放置した状態で、怒鳴りちらし悪意も感じられ、父親も怯えてる様子で、とても精神的ストレスを感じてるようです。
財産目的で離婚にも応じず、離婚するなら多額な金額を請求します。
最近では認知症の父親を連れて役所や銀行周りも始めてるようでこのままでは、財産も預金も取られた上何をされるかわかりません。
何か離婚以外でも二人を離し父親を保護する方法はないのでしょうか。
また、すでに認知症の診断書が出てる父を同行して名義変更等が可能というのはいくら父が名前を書けたとしても、無効ではないのでしょうか。
【相続対策としての成年後見】
相続に関する法律相談で、よく問題になるのが認知症の被相続人の預貯金を近親者の方が引き出し、あるいは解約していたという話です。
今回のように、義理のお母さんがお父さんの財産に手を出している疑いがあるケースは、間違いなく将来における相続紛争の火種があるケースと言えるでしょう。
そのような場合、お父さんの財産を保全するため、家庭裁判所に申し立てをして、お父さんに成年後見人をつけるという方法が考えられます。
後見人が選任された場合には、お父さんの財産はすべて後見人が管理することになります。
預貯金などもすべて後見人の名義の口座に移りますので、その後は義理のお母さんが引き出すことはできなくなります。
これが将来の相続対策として役立つことが多くあります。
【認知症の程度次第でサインも有効】
お父さんは認知症のようですが、名義変更のサインが有効か否かは程度次第です。
たとえば、全く判断能力がない(たとえば、自分の名前や子どもの名前も出てこない、家族か他人かも区別できない、簡単な計算もできないなど)ケースがあります。
この程度であれば裁判所も後見人の選任を認めるでしょうし、名義変更のサインも無効になる可能性が高いでしょう。
他方で、衰えはあるものの一部判断能力が残されている状態の場合もあります。この場合は後見人がつけられない可能性もあり、名義変更のサインも有効とされる余地があります。
【医師のテストで認知症の程度を判断】
認知症の程度を判断する基準としては、長谷川式認知スケールというテストがあります。
お医者さんにこのテストをしてもらって、10点以下(満点は30点です)の場合には後見人がつけられる可能性があります。
後見人は全く判断能力がない場合に選任されますが、認知症の程度が軽い場合にも、後見ではなく保佐や補助といった制度があり、家庭裁判所に問い合わせれば詳しく説明をしてくれますので、一度問い合わせをされるとよいでしょう。
【弁護士など専門家が後見人になるケースも】
通常は近親者の方が後見人になることが多いのですが、被後見人(お父さん)に財産がある場合には司法書士や弁護士などの専門家が後見人になることが多くあります。
このような専門家の後見人が選任されれば、義理のお母さんも勝手にお金を引き出すなどの行為ができなくなり、(少なくとも今後は)お父さんの財産は守られることになります。
この点も家庭裁判所に確認するといいでしょう。
【後見人選任申立の問題点】
後見人の申立には、前項で述べたようなテストや診断書が必要ですが、まず病院に連れて行って診断書を作ることすら義理のお母さんが反対する可能性があります。このようなケースでは選任すら困難を極めます。
次に、後見人を選任する申し立てをすれば、裁判所は義理のお母さんに申立が出ているという通知を送ります。
この通知を見て、義理のお母さんは預貯金を一挙に引き出してしまう可能性もあります。
後見人は、選任されてからはしっかりした管理をするでしょうが、選任される以前の引出分まで取り戻すことはあまりありません。
この点は我々もよく問題視するところですが、実際上解決に至る手段が見当たらないのが実情です。
【後見人に身上監護を要望】
最後に、お父さんが怒鳴られる、あるいは食事も与えてもらえないというある種の虐待に類する問題ですが、これもかなり難しい問題です。
成年後見人はお父さんの身上監護権を持っており、お父さんの居住場所や施設について各種の手配を行うこともできます。
しかし、仮にも法律上の配偶者が介護をしている状況下で、配偶者の反対を押し切ってまでお父さんを施設に入れるといったことは、命の危険が差し迫っている状況があるなど極限的な状況でない限り行うことができないでしょう。
そこで、現時点ではまず地域の役所の市民相談窓口などに相談し、相談の記録を公的に残してもらうことをお勧めいたします。
その上で、もし成年後見人が選任された場合には、後見人に虐待の証拠を示して何度も説明し、粘り強くお父さんの居住場所を自宅とは違うところに動かすよう後見人に要望するほか無いと思われます。