認知症の母の預金を「本人からの依頼」と言って払い戻しをするのは違法でしょうか?
母は現在入院中の要介護3で認知が進んできております(ここ一年)。
特に「認知症」の診断は医師から受けておりません(診断を拒否するため)。
息子である私は遠方のため、近くにいる母の兄弟が世話をしてくれておりました。特に一番下の妹夫婦が頻繁に顔を見せておりました。
入院費や生活費は母が管理のもと叔父、叔母たちがやってくれておりました。
最近、一番下の妹夫婦がかなりまとまったお金を口座からおろしていたことが発覚しました(1,000万円近く)。
問いただしても「姉さん(母)に頼まれたから」の一点張り張りです。
母はその時々で言うことが違います。
ただ、入院中の母は使い道がありません。
依頼認知症の、診断書かなければ窃盗?横領?とかの罪に問うことは出来ませんか。
開き直っており「やることはまたまだあるからな」と妹の旦那に捨てせりふのように言われました。
腹も立ちますが、それ以上のことをしてないか(妹の旦那を養子にする、遺言書を勝手に書かせる)とても心配です。
成年後見人の申請をするつもりですが、認定をもらうまでの間は手のつけようがないのでしょうか?
【窃盗や横領に問うことはできるか】
お母さんの一番下の妹さん夫婦がお母さんの預金を、お母さんの同意なしに勝手に引き出したということであれば、窃盗や横領罪が成立します。
この犯罪の成立と、お母さんの認知症との関係ですが、お母さんが認知症であり、意思能力がない場合には、窃盗や横領が成立する可能性が高くなります。
しかし、お母さんが認知症でない場合には、お母さんの同意があった可能性もあり、窃盗や横領の成立の可能性は少なくなります。
ただ、いずれにせよ、お母さんとその妹さんの関係は、別居した親族(2親等)になりますので、刑法の規定(末記参照条文:刑法第244条2項)により、お母さんの告訴がない限り、これらの罪で処罰されることはありません。
参考までにいえば、仮に妹さんがお母さんに無断で出したというのであれば、払戻し請求書のお母さんの署名欄は、妹さんが偽造したものということになり、有印私文書偽造及び同行使の罪にも該当します。
しかし、いずれにせよ、警察としてはすぐに捜査を開始するようなことは、通常は考えにくいです。
【養子縁組や遺言書の作成への対処】
《妹の旦那を養子にする、遺言書を勝手に書かせる》ことを心配されているようですが、その可能性はありえます。
そのため、お母さんの認知症の程度がひどく、物事の判断がつかないような状態であれば、早期に成年後見の申立をし、後見人に財産管理をしてもらう必要がありそうです。
現在は要介護3ということですが、身体障害であるのか、認知症のような精神的なものであるのかはっきりしませんが、仮に認知症により要介護3であったとしても、ただちに成年後見を付することができるかどうか疑問です。
ただ、成年後見は財産管理がまったくできない場合ですが、それより認知症の程度が軽い(しかし、完全な財産管理ができない)場合には、裁判所に保佐人の選任申立をすることができます。
保佐人が選任された場合には、お母さんとしては多額の預金を引き出すような場合には保佐人の同意が必要になります(保佐人の同意を得なかった行為は取り消すことができます)。
裁判所により保佐人が選任されたということなら、妹さん夫婦にとっては強いけん制になり、勝手な行為が収まるかもしれませんので、検討されるといいでしょう。
なお、金融機関に、お母さん以外の人には支払いしないように内容証明で申入れすることも考えられますが、このような申入れをしても、妹さん夫婦がお母さんに同行し、預金払戻書を銀行員の前で記載させれば、銀行として払戻しを拒否はできず、結局、有効は手段にはならないでしょう。
参考条文:刑法第244条(親族間の犯罪に関する特例)
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前2項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。