法律婚の妻より、遺留分減殺が特定記録であり。
被相続人と私との未成年の子供三人宛の請求。
法律婚は、生命保険、死亡退職金で3200万受取。
二十年間別居、音信なし。
財産分与として、別居期間中4200万支払い。
離婚調停一回。弁護士による離婚交渉一回。
居宅固定資産税による評価900万。
時価評価2000万。
私の持ち分3/40。
37/40は相続による子供たち3人に均等持ち分登記済み。
その他の相続財産は、預金等800万。
特別受益持ち戻しが認められ、出来れば改めて子供たちに遺産分割される方法はないものか、お伺いいたします。
【相続で事実婚はどこまで保護されるのか】
今回の問題は、婚姻(法律婚)をしていた男性(以下、Aさんということにします)と長年にわたり生活を共にし、しかもAさんとの間に3人の子供を出生されていた女性の方(以下、あなたということにします)からの質問です。
今回の問題は、《相続において事実婚の方がどこまで保護されるのか》という問題を含んでいます。
結論から言えば、事実婚である限り、保護は極めて薄いということです。
【妻に遺産が行かないのなら、遺留分を請求できるが・・】
まず、あなた方が遺留分減殺請求を受けたというのですから、Aさんは遺言をし、あなたの子供らに不動産を相続させることにされたようであり、当然のことながら法律上の妻には何も相続させないという内容だったのでしょう。
ところで、婚姻をしていた妻の立場からは当然遺留分減殺請求がされることが想定されるケースです。
妻の遺留分は4分の1ですので、遺言により子供らに所有権移転された37/40は、4分の1の限度で妻に相続されることになります。
【財産分与分を特別受益で遺産にもち戻しはできないか】
あなたの対場から言えば、別居しており、しかも多額の《財産分与》(離婚していないのでおそらく婚姻費用の支払いのことでしょう)をもらっている妻にそんな請求ができるのかという気持ちだと思います。
しかし、相続の上では、戸籍だけの妻であったとしても、法定相続分2分の1ですし、遺留分減殺請求は4分の1であり、これは妻が長年別居していようが、関係なく認められます。
《財産分与(婚姻費用)》も多額であっても、それは贈与ではなく、夫婦関係から発生する夫の扶養義務であり、特別受益にはならないでしょう。
【生命保険は特段の事情がない限り、特別受益とはならない】
生命保険金を妻が受け取ったようですが、生命保険は特段の事情がない限り、相続財産にはなりません。
ただ、遺産総額と比較して多額と思われるような場合(ある裁判例では遺産額の約60%が目途)なら、遺産に持ち戻される場合があるにとどまります(相続Q&A №298をご参照ください。)
【死亡退職金は相続財産かどうかについては意見が分かれている】
① 公務員の場合
死亡退職金というのはさまざまな意味でつかわれますが、この回答では、Aさんが在職中に死亡したために支払われる退職金と理解して回答します。
まず死亡された人が公務員の場合には、退職金の受取人は法律の規定で定められています(相続の一般法である民法とは異なる範囲及び順位の人が受け取れる)ので、死亡退職金が遺産でないということが最高裁の判例で確立されています。
② 公務員以外の場合
今回の質問では、妻が死亡退職金をもらったということですので、Aさんは公務員ではなかったのでしょう。
民間等の企業などで出される死亡退職金については、それが遺産になるか否かいついては見解がわかれており、一律に決定することはできません。
具体的なケースごとに遺産に入るか否かを判断していくしかないでしょう。
ただ、一つの判断要素を言えば、死亡退職金は、通常は勤務する支給規定に基づいて支払われるものですので、その規定で民法の定める順位や範囲と異なった規定が定められているようなら、遺産でない(ということは事実婚の方が死亡退職金を受給できる)とされる可能性が高くなるでしょう。
参考までに言えば、退職金規定で《相続人に支給する》と記載されていたなら遺産になるが、単に《遺族に支給する》と記載されていたのなら、その退職金はあなたのようにAさんの収入により生活をしていた遺族の生活保障を目的とするものであり、あなたのような事実婚の立場の人が受給権を有するとした判例もあります《最判昭和60年1月31日 家裁月報37巻8号39頁》。
しかし、いずれにせよ、裁判の最終結論は、退職金規定の条文のみだけではなく、諸般の事情を考慮して判断されることになりますので、簡単に結論を出すことはできないと言うしかありません。
そのため、退職金や、前に述べた生命保険金などを妻が受け取ったのにつき、あなたが納得できないというのであれば、弁護士に具体的な事情を詳細に相談し、回収の可能性を判断して、必要に応じて、事件を依頼するしかないでしょう。