音信不通だった父が亡くなり、預金をおろしにいくつもりです。
古く状態は良くないものの、父名義のマンションに住んでいたため、家賃こそありませんが、荒んだ暮らしだったようで、管理費や、公共料金の滞納があります。
相続人として預金をおろした場合、それらの支払い義務、またサラ金に借金があった場合の返済義務は生じますか?
マンションの資産価値は現金に換算して、相続税がかかるのでしょうか?
記載内容 借金 滞納 預貯金の引き出し 相続期間の延長 遺産調査事項
【預金を下ろすと相続の承認となるか?】
お父さん名義の預金は遺産です。
そのため、お父さんの預金を引き出すと相続の承認をしたとされ(末記条文参照)、相続放棄ができなくなるというのが原則です。
相続放棄ができないと、お父さんの借金等の債務は、法定相続人であるあなたに引き継がれ、あなたが債務の支払い義務を負います。
ただ、過去の裁判例を見ると、遺産を墓代や葬式代に使用したり、死亡した人の荷物の引き取りのために使用したような場合には単純承認にはならず、相続分の放棄が可能(平成14年7月3日の大阪高等裁判所決定等)というものもあります。
私的利用ではなく、被相続人の死亡に伴う支出で、社会的に非難されないようなものに出費した分は処分にあたらず、相続放棄を認めようというのが裁判所の考え方といっていいでしょう。
なお、一旦は預金を引き出したものの、それを使用しておらず、その後に預金に戻した場合や手元に持っていただけの場合にも、相続財産を処分したとはみなされず、相続放棄が可能と考えていいでしょう。
【まず、遺産調査を確認しましょう】
預貯金を引き出す前に、まず遺産調査をし、相続放棄をするべきかどうかを決断する必要があります。
お父さんの遺産(財産)と債務の調査し、遺産の方が多い場合には相続放棄をせず、相続を承認するという決断をしてから後に、預貯金を引き出すという手順になります。
【遺産調査で確認すべき事項は次のとおりです】
1.遺産関係
① 預貯金額の確認・・金融機関で確認しますが、その際、預貯金とは別に借金等の債務がないか、又、保証人になっていないかどうかも確認するといいでしょう。
② 不動産の確認・・不動産があるのかどうか、あればどの程度の価額かを確認する必要があります。
これらの点は市町村に確認するといいでしょう。
もし、不動産があるのであれば、ついでに固定資産税の未納付がないかどうかも確認しましょう。
③ 株式等の確認・・預金通帳で配当などがある場合には、証券会社に株式の有無を確認する必要があります。
2.債務関係
① マンションの管理費や公共料金
催告書の有無の確認やマンション管理組合への問い合わせをして滞納があるかどうか、滞納がある場合にはその金額を確認しましょう。
② 固定資産税の滞納
この確認も必要不可欠ですので、市町村の固定資産税係に確認する必要があります。
③ 金融機関やサラ金などからの借り入れ
お父さんのご自宅に届いている借入金や返済状況のお知らせといった郵便物により把握できるものもありますが、サラ金などからの借り入れの可能性があれば、お近くの信用情報機関などに問い合わせれば概ね把握できるでしょう。
【調査のために時間がかかる場合には延長願いを出す】
相続放棄は原則として、相続開始を知った時点から3ケ月以内という短期間に家庭裁判所申し出する必要があります。
しかし、調査のために時間がかかる場合もあります。
その場合には、予め、裁判所に相続放棄の期間延長願い(専門用語では「相続放棄の熟慮期間伸長願い」と言います)を出すといいでしょう(【コラム】相続放棄期間の伸長参照)。
遺産調査が難航しており、時間がかかるということを記載するだけで裁判所は簡単に3ケ月間の延長を認めてくれます。
【相続税について】
平成26年内に相続が開始した場合には、基礎控除5000万円+法定相続人1人当たり1000万円の基礎控除が認められていました。
そのため、法定相続人があなただけであれば、6000万円の基礎控除がありました。
遺産(財産)から負債を控除して、6000万円以内であれば、相続税の申告は不要です。
平成27年1月1日以降に死亡された場合には、基礎控除3000万円+法定相続人600万円の基礎控除ということに制度が改められましたので、法定相続人があなた一人だけであれば、3600万円の基礎控除になります。
遺産(財産)から負債を控除して、3600万円以内であれば、相続税の申告は不要です。
ただ、差額が3600万円以上あった場合でも、相続税特有の不動産価額の計算方法もあり、相続税の申告が不要となる場合もあります。
詳しくは税の専門家である税理士さんに相談されるといいでしょう。
《参照条文:民法第921条 法定単純承認》
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。