【質問の要旨】
叔父の相続について、相続放棄か限定承認を考えている。
遺品を整理したら単純承認になる?
税金や光熱水費の支払いもしないほうがいい?
【ご質問内容】
独居の叔父がなくなり甥である自分が相続人となりました。
若干の現金と一戸建ての遺産がありますが、人の良い叔父が連帯保証人になっていないか心配しております。
遠方に住んでおり、叔父の交友関係など全くわからないので、限定承認か相続放棄を考えております。
この場合注意することはありますか?
また、相続放棄をする場合、独り暮らしの叔父の遺品整理をしてしまうと単純相続したことになってしまいますか?
相続放棄をした場合、家の後始末も全くしなくてよいと言うことでしょうか?
既に、叔父の自動車税や固定資産税、電気、水道、ガス、電話などの支払いをするように手配しています。
アドバイスのほどよろしくお願いいたします。
【保証債務の有無の確認はむずかしい】
ご質問では、叔父が連帯保証人になっていないかが不安だということですが、被相続人が保証債務を負っているのに、その相続人が相続放棄をしなかった場合、この保証人の地位も相続人に承継され、相続人が保証債務の支払いをする必要があります。
問題は、ほとんどの場合、被相続人が保証人となっているかどうかが判明しないということです。
借金であれば、信用情報機関(CICやJICC等)に調査をすれば、情報が上がってくる可能性が高いですが、保証債務については、登録されていないことも多いからです。
また、借金があれば、債権者から何らかの通知が届き、そこから詳細がわかることがありますが、連帯保証の場合には、主債務者が自分で債務を弁済している限りは、現実化しませんので、通知等が届くこともなく、気づきにくいのです。
【死亡後10年経ってから保証債務を請求されたケース】
たとえば、被相続人である母親が死亡した後、約10年経過してから、父親のしていた会社が破産し、会社の債務の連帯保証人として、母親が借金の請求をされたというケースがありました。
この場合には、被相続人から何も財産などはもらっていなかったことから、相続放棄の手続きをし、結局、放棄が認められました。
【こんなことを調べてはどうか】
以上の通り、保証債務を見つけるのは至難の業ですが、まずは、叔父さんがどのような社会的地位にいたのかを調べる必要があるでしょう。
もし、叔父さんが会社の社長や役員をしていたのであれば、会社の借財に連帯保証をしている可能性も考えられ、慎重に遺産調査をする必要があります。
また、叔父さんの家に行って、債務の請求らしき書類が届いていないか、借用書などはないか、探してみるというのも一つの手です。
上記の通り叔父さんの債務についてできる限り調査した上で、叔父さんの債務についての情報が得られなければ、叔父さんの持っていた財産がどの程度のものかをみて、それほど多額でなければ、安全を期して相続放棄をしておくという判断もありうるでしょう。
相続放棄は、相続開始を知ってから3ケ月以内に申立てする必要がありますが、もし、調査に時間がかかるのであれば、放棄期間伸長願いを裁判所に提出するといいでしょう(ブログ【コラム】相続放棄期間の伸長参照)。
【遺産の整理と相続放棄】
相続放棄は、法定相続人が被相続人の相続をしないと家庭裁判所に申し立てることです。
相続放棄をすると、遺産のうちの預貯金や不動産、株式等、一切の財産を相続でもらうことはできなくなります。
その反面、被相続人の債務(借金等)も相続しないことになりますので、支払う必要はなくなります。
ただ、相続人が、預貯金を払い戻す等、遺産を使うような行為をしてしまうと、相続放棄は認められません。
そのため、価値ある物品(例えば絵画や彫刻等)を売却するような場合には、遺産の処分に該当し、法的には相続放棄ができないということになります。
今回の場合は、遺品の整理ということで、鍋・洋服・布団等の価値の小さいもののことをおっしゃっているのではないかと思います。
価値の小さいものであっても、遺産であることには変わりなく、処分をすれば、理論的には相続放棄はできないということにはなりますが、上記のようなものであれば、裁判所も単純承認とまでみなすことはせず、依然として相続放棄は可能だと思われます。
【遺産の整理はしなくてもいいのか・・】
法律的には、相続放棄を考えているのであれば、遺産に手をつけない方が無難です。
しかし、遺族としての立場から言えば、最低限の遺産整理もしないと社会的な非難を受けかねません。
そのため、価値あるものは積極的に処分せずに置いておき、価値のないものは廃棄するというような形で処理をしていくしかないでしょう。
【自動車税や固定資産税、電気等の支払いについて】
叔父の自動車税や固定資産税、電気、水道、ガス、電話などの支払いをするように手配していることようですが、あなたが相続人として、被相続人の財産から支払いをしているのであれば、単純承認とみなされる可能性が高いです。
そのため、被相続人の財産から支払う手配をすることはやめたほうがよいでしょう。
【限定承認はほとんど使われていない】
民法の条文を見ていると、限定承認は財産と借財を確認したうえで、相続をするという制度であり、合理的な制度のように見えます。
しかし、共同相続人全員で行う必要があり、また、不動産の相続などで、税務上は相続とはみなされず、譲渡所得税として不動産額の20%にあたる多額の税金が課される等、使い勝手の悪い面があるため、当事務所では今まで1回も限定承認という方法をとったことはなく、また、他の弁護士がこの手続きをしているのを見たこともありません。
詳しくは「【コラム】限定承認の手続きについて」をご参照ください。