【質問の要旨】
過去に治療費を出してもらった場合、相続時に考慮するのか
【ご質問内容】
昨年暮れ母親が亡くなったのですが、不動産の相続で問題が起きています。
兄弟が4人いるのですが長兄が母の看病を嫌い闘病中に急に連絡がとれなくなり、そうこうするうちに母が亡くなりました。
葬儀にも来ず、残った兄弟で葬儀をあげたのですが、いざ相続の事になると急に出てきてお金をもらう事を主張し始めました。
長兄の言い分は4人で平等に分けるのは不公平というのです。
と、いうのは私が数年前ガンにかかりその治療費を母がだしてくれたのですが、その分の金額を私の相続分から引かなければ不公平だというのです。
母が元気な時の話ですし、そんな事を言われるとは夢にも思いませんでした。
長兄のいうように均等に分けて相続するのは不公平にあたるのでしょうか。
また、長兄にはどのように対処すればいいのでしょうか。
【治療費は特別受益にならない】
あなたはお兄さんから、数年前病気になったときにお母さんに出してもらった治療費をお母さんの相続に際して考慮するべきだと主張されているようです。
これは、法律的に言えば、あなたがお母さんからもらった治療費が特別受益となるかどうかという問題です。
特別受益になるなら、治療費の額を遺産の中に組み入れて、各相続人の遺産額を計算する必要があり、その結果、あなたは遺産を治療費として先にもらっているから相続での取り分が少なくなる(場合によればゼロになる)こともあります。
この特別受益とは、民法903条で、「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」場合であると規定されています。
本件のような治療費は、お母さんが生きておられる間にもらったものですので遺贈ではありません。
また、婚姻、養子縁組や生計の資本のためにもらったものであれば、その贈与が相続財産の前渡しとみられる贈与であるか否かを基準として判断しますが、病気の治療のためのお金ですので、婚姻、養子縁組や生計とは関係がなく、相続財産の前渡しとは考えにくいでしょう。
【仮に特別受益になったとしても持戻し免除を主張することができる】
前項に記載したように治療費が仮に生計の資本としての贈与だと判断されたとしても、あなたの治療費として、お母さんがあなたのことを心配してお金を出してくれたというのであれば、通常お母さんとしては「治療費としてあげたお金は遺産分割において考慮しなくてよい」と考えていたと考えられます。
そこで、病気の治療費として出してくれたという事実から、持戻し免除の黙示の意思表示があったと考え、主張するとよいでしょう。