【質問の要旨】
孫への教育費は特別受益になるか?
【ご質問内容】
亡くなった父の財産分割をするに辺り、兄弟二人で遺産分割をする事になりました。
父の預貯金を調べてみたところ、弟夫婦に父が生前孫の教育費にと200万を渡していた事が判明しました。
財産分割について、生前父から一切お金を貰っていなかった私としてはその差額分を考慮して欲しいと弟にお願いしたのですが、弟は残った財産は兄弟なのだからきっちり二分の一に別けるべきだと聞く耳を持ちません。
父が生前に弟夫婦へ渡したお金は財産分割には含まれないのでしょうか?
【原則は特別受益にならない】
遺産分割のときに考慮される贈与のことを特別受益といいますが、特別受益とは、基本的に、相続人が被相続人から贈与を受けた場合のことをいいます。
これは、特別受益制度は相続人間の実質的公平を実現するための制度だからです。
したがって、相続人の配偶者や子供(被相続人の孫)が贈与を受けた場合には、原則として特別受益にならない(つまり、遺産分割時に考慮しなくてよい)ということになります。
今回のご質問では、亡くなった父が、孫への教育費として、子供である弟夫婦にお金を渡していたという事案です。
弟夫婦には渡されていますが、孫は未成年者ですので、親権者の弟夫婦が受け取った、現に孫の教育資金として使われている(あるいは使われそうである)というような事情であれば、それは孫への贈与と考えるべきですので、弟夫婦の特別受益にはならないということになります。
【場合によっては特別受益と判断されることもある】
孫への贈与が実質的には弟への贈与であると評価することができる場合には特別受益として認められる可能性があります。
下級審裁判例においても、相続人本人ではなく、配偶者に対して贈与をしたという事案で、福島家庭裁判所白川支部昭和55年5月24日(家裁月報33巻4号75頁)は、「贈与の経緯、贈与された物の価値、性質及びこれにより相続人の受けている利益などを考慮し、実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には、たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であってもこれを相続人の特別受益とみて、遺産の分割をすべきである。」と判示しています。
(【相続判例散策】相続人以外の者に対する特別受益(福島家庭裁判所白河支部 昭和55年5月24日)参照)
この裁判例を見ると、経緯や額を考慮して、場合によっては特別受益と判断されることもありえると考えられます。
特にそのお金が孫の教育資金としてではなく、弟が使ったということであれば、特別受益になる可能性もあり得ます。
又、あなたとしては、孫の教育費だとはいっても、父が出さなければ弟夫婦が出さなければならなかったものなのだから、実質的には弟夫婦への贈与だと主張することも可能でしょう。
ただ、孫への贈与が、その親への特別受益と認められるケースは決して多いとは言えないということだけは覚えておかれると良いでしょう。