【質問の要旨】
①子や孫への生前贈与は特別受益にあたるか?
②預貯金のみを相続したいが、どのように協議を進めればいいか?
【ご質問内容】
父が被相続人。相続人は私・兄・妹です。
兄は兼業農家の跡取りとして、遺産全部を受け継いで当然と考えており、妹も同意しています。
私はこれまで、父からまとまった金銭を受け取ったことが全くなく、この相続では預貯金の3分1を受け取ることを希望しています。
①父が生前、兄や兄の子(孫)に金銭を渡したことは、特別受益にあたるでしょうか。
特別受益にあたるなら、相続遺産に加えたいですが、妥当でしょうか。
心配なのは兄がすんなり認めるかです。認めさせる方法を教えて下さい。
②遺産分割協議は駆け引きの場だと思います。
どんなことに注意すればいいでしょうか。
大切なことを教えてください。
【あなたの申し出はどう評価できるか】
あなたの相続分は3分の1ですが、それは遺産全部について、その3分の1です。
遺産の中には不動産もあると思いますが、その不動産についてもあなたは3分の1の相続分があります。
もし、遺産の中に不動産があるのに、あなたが預貯金の3分の1のみの相続で我慢するというのであれば、不動産については法定相続分を取得しないという大幅な譲歩をしていることになります。
兄としては決して損な話ではありません。
【生前引渡分の扱い】
生前に父が兄に金銭を渡していたのであれば、おそらく生前贈与に該当するでしょうから、遺産分割の際には、特別受益として遺産に持ち戻される可能性が高いです。
ただ、孫についての生前贈与ですが、兄とその子である孫とは、別の人格ですので、兄の特別受益と見なされる可能性は低いでしょう。
【兄はすんなりとは認めない可能性が高い】
あなたの提案する預貯金の3分の1の相続で兄がすんなりと認めるかという点についても述べます。
都会では相続をお金で割り切ることが多く、あなたの提案で兄が納得することも多いでしょう。
しかし、郊外などで農業をされているような方については、跡取りが遺産全部を取得するものだという考えを持つ方が多く、又、周囲の親族もそのような方向で圧力をかけてくるということも多いようです。
このような地域性に加えて、妹が遺産はいらないという意向であるなら、兄としては《あなたにだけなぜ遺産を与えるのか》ということで、あなたの提案に難色を示す可能性が高いと思われます。
又、兄の立場から言えば、父の農業を手伝ったので、寄与分として遺産から優先的に財産を取得すると主張することも考えられます。
【調停制度の利用をお勧めします】
このように本来は当然遺産分割するべきなのに、遺産分割をしないというようなケースでは調停制度を利用されるといいでしょう。
調停は兄の住んでいる地域の家庭裁判所に申立をします。
手続き等がわからないのであれば、家庭裁判所に行って、どのように申立をすればいいかをお聞きになるといいでしょう。
調停のいいところは、調停委員という第三者が兄とあなたの話の双方を聞き、円満な解決の助けをしてくれるということです。
裁判所で第三者が法律を前提に解決しますので、兄としても納得せざるを得ない場合が多いですし、あなたのように預貯金の3分の1でいいということであれば、調停委員としても兄を鋭意説得してくれるものと思います。
【調停での対応のコツ】
調停のコツとしては、最初は全部の財産の3分の1を請求し、その後、調停委員の説得で預貯金の3分の1に応じる形をとるといいでしょう。
調停は互いに譲り合って解決するという制度ですので、最初に譲ったところから出発すると更なる譲歩を求められますので、この点はよく覚えておかれるといいでしょう。
【調停は裁判ではない】
なお、兄や親戚の方などは、《裁判沙汰にして》などというかもしれません。
しかし、調停は裁判ではなく、円満な解決を望む制度です。
相続についての話し合いは本当に難しく、私(弁護士大澤)の経験でも話し合いで解決することは本当に少ないです。
兄があなたの希望に従った解決をしないのなら、早期に調停を申し立てることを考えるといいでしょう。
【弁護士の知恵も借りる】
なお、あなたの遺産問題で何が問題になるかを知っておくためにも相続に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。
何が問題であり、あなたが本来はどの程度の財産をもらえるのかを教えてくれるはずです。
あなたの考えで間違っているところはないかどうか、弁護士の眼からみれば何が問題点になるのか、それらを知った上で、調停の申立をして、問題を解決するのがベストだと思います。