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実例Q&A

生活費の援助は特別受益か?【Q&A №656】

2019年8月1日

 

【質問の要旨】

相談者は、母と暮らしていた5年間は母の年金で生活していた。

母の死後、「相談者のために支出した生活費などのすべてを持ち戻すこと」と母が書いた書面を姉から渡された。

生活費も相続財産に持ち戻さなければならないか?

【ご質問内容】

私は二人姉妹の妹です。

先月母が亡くなりました。

母が亡くなるまでの10年間のうち、前半の5年間は私と母の2人暮らしで、母の年金で生活していました。

しかし母との生活は、母の面倒を見なくてはならず、それが嫌で私だけ家を出ようと思いましたが、それを姉に伝えると、姉が母を引き取りました。

なので後半の5年間は、と母は姉夫婦と同居しました。

今回、遺産分割にあたり、姉から母が書いた書面を渡されそこには「妹(私)との同居中に、妹(私)のために支出した生活費などの全てを持ち戻すこと」と書かれていました。

姉が言うには、母が私に支払った全ての支出を相続財産に戻して清算するという意味の様です。

このような書面があると、私はどうなってしまいますか?

生活費なんかも相続財産に戻さないといけないのですか?

 

 
(rogu)

 ※敬称略とさせていただきます。

 

 

【生活費程度は特別受益から除外】

ご質問の件ですが、生活費は持ち戻しの対象にはならないと思われます。

以下、その理由を説明していきます。

民法は特別受益という制度を規定しています。

これは、相続人が被相続人から「生計の資本として贈与」を受けた場合には、それは被相続人から相続人に対する遺産の前渡しだから、これを遺産分割時に考慮して、相続人の実質的な公平を実現するための制度です。

質問にある生活費の援助が特別受益に該当する場合には、これを遺産に持ち戻して具体的相続分を計算することで、贈与を受けなかった者は受けた者よりも多くの遺産を取得します。

【生活費程度は扶養の範囲内】

このような生活費と特別受益の問題は遺産分割調停でよく問題になります。

しかし、生活費が特別受益とされることはあまりありません。

その理由は、母が子供の扶養義務を負っているからです。

母が子を扶養する義務は子供が成人した後でも続くため、月に数万円程度の生活費提供であれば、「母が扶養義務を果たしただけ」であり、プレゼント(贈与)ではないと扱われることが多いでしょう。

常識的にも、母が子を扶養することを「贈与(プレゼント)」と呼ぶには違和感があるのではないでしょうか。

もちろん、「生活費」と称して毎月50万円や100万円といった多額の資金が提供されていれば別ですが、月数万円程度なら扶養義務の範囲内といって差し支えないでしょう。

【母の書面は法的効力なし】

ただ、今回は母が「生活費を持ち戻しなさい」という書面を書いていたようです。

亡くなった母が死亡後に法的効力のある書面を残す方法は遺言だけですが、これは遺言の形式的な方式を満たしている必要がありますが、今回はいかがでしょうか。

また、特別受益でないものを「生活費として渡したけど、そのお金は特別受益として持ち戻す」という遺言を書いても法的効力はありません(証拠として用いることができるにとどまります。)。

いずれにしても、母の書面は法的な効力がありませんので、上記のように生活費として一般的な範囲の金額かどうかを検討されるとよいでしょう。

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