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実例Q&A

父から母への贈与と特別受益【Q&A №670】

2019年12月19日

【質問の要旨】

・亡父が生前、母と姉に土地を贈与。

・母は病気がちの父を助けるため農業に尽力し、一方で姉は何もしなかった。

・母への贈与は、姉と同様に特別受益になる?寄与分は認められる?

 

 

 

【回答の要旨】

・原則として、父からの生前贈与は遺産の先渡し(特別受益)となる

・持戻し免除の意思表示があったといえれば持戻しは不要

・母は、持戻し免除の意思表示の主張をすべき

・寄与分についても主張はすべき

【ご質問内容】

今年の3月に父が91歳で亡くなり、母(90歳)と姉と私の間で遺産分割協議を進めています。

30年前、姉は家を建てるとき父から土地の贈与を受けていました。

姉もこの土地が特別受益になると認めています。

また、25年前、母も父から住んでいる家の敷地(2/3)の贈与を受けています。

ところが、姉は母が父から贈与を受けた土地についても特別受益になると主張しています。

私の両親は農業を営んでいて、父は病気がちで、母が中心となって働いていました。

父は生前、母が農家を維持するのに多大きな貢献をしてくれたことへの感謝と、自分が亡くなっても母が困らぬように母に土地を贈与したと言っていました。

姉は父に何の貢献もしなかったのに土地をもらいましたが、母は農家の嫁として一生懸命に働き、父に尽くしてきました。

このことから私は、母が贈与を受けた土地を特別受益とする姉の主張は不公平で納得がいかなく、逆に母に寄与分が認められるのではと思いますが?

(ももクロ)


 ※敬称略とさせていただきます。

 

【原則として、父からの生前贈与は遺産の先渡し(特別受益)となる】

生前に法定相続人のうちの誰かが被相続人から財産の贈与を受けている場合には、《特別受益》として遺産に持ち戻します。

これは、相続人間での公平を図る目的で定められたものであり、生前贈与は遺産の先渡しと考えてのことです。

そのため、父から姉への土地の贈与も、父から母への自宅敷地の贈与も、原則的には特別受益となり、遺産分割の際には、遺産に持ち戻して計算することになります。

【持戻し免除の意思表示があったといえれば持戻しは不要】

ただ、被相続人が、明示でも黙示でもよいので、遺産に持ち戻ししなくてもよいという意思表示をしていたことが証明できれば、特別受益であっても遺産に持ち戻す必要はありません。

黙示の持戻し免除の意思表示があったか否かについては、贈与の内容及び価額、贈与の動機、被相続人との生活関係、相続人及び被相続人の職業、経済状態及び健康状態、他の相続人が受けた贈与の内容・価額及びこれについての持戻し免除の意思表示の有無など諸般の事情を考慮して判断すると考えられています。

具体的には、

①家業承継のため、特定の相続人に対して相続分以外に農地などの財産を相続させる必要がある場合

②被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合(被相続人との同居のための居宅建設における土地使用の権限付与など)

③相続人に相続分以上の財産を必要とする特別な事情がある場合(病気などにより独立した生計を営むことが困難な相続人に対して生活保障を目的としてなされた贈与、妻の老後の生活を支えるための贈与など)

などでは、明示的な持戻し免除の意思表示がなくても、黙示の持戻し免除の意思表示があったと認められる可能性があります。

【母は、持戻し免除の意思表示の主張をすべき】

ご質問の事案の場合、父が生前に、母が農家を維持するのに大きな貢献をしてくれたことへの感謝と、自分が亡くなっても母が困らぬように母に土地を贈与したと言っていたとのことですので、母は上記父の発言を理由に、持戻し免除の意思表示があったと主張すべきです。

実際に、母は病気がちの父のために農業に尽力されたとのことですし、上記具体例の中の③妻の老後の生活を支えるための贈与との意味もあると考えられますので、持戻し免除の意思表示があったと認められる可能性は高いと思われます。

※なお、相続法改正により、2019年7月1日以降に、婚姻期間が20年以上である配偶者に対して、居住用建物又はその敷地を贈与した場合には、原則として、持戻し免除の意思表示を推定し、遺産に持ち戻さないことになりました。

今回の事案では、直接この改正の対象になるわけではありませんが、亡くなられた方の配偶者を保護しようとする最近の流れからすれば、今回の事案でもある程度有利に働くのではないかと思われます。

【寄与分についても主張はすべき】

最後に、寄与分についてですが、寄与分とは、「被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした」場合に認められるものであり、通常期待される程度を超える貢献が必要とされています。

母は病気がちの父に代わって、必死に働き、家計を支えてきたものと思われますが、寄与分はなかなかハードルの高い制度ではあります。

仮に認められたとしても、その額は200万円~300万円程度であり、また、特別受益と寄与分の両方が認められるということは通常ありません。

被相続人のために寄与した分は、特別受益という形で評価されていると考えられるからです。

そのため、寄与分の主張はすべきですが、なかなか認められないですし、特別受益の持ち戻し免除のほうが母の利益としては大きいということはご理解いただいたほうがよいと思います。

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