【質問の要旨】
・父死亡。相続人は、相談者(先妻の子)と、後妻の2名。
・父と後妻…平成8年に結婚。平成10年に公正証書遺言作成。平成13年離婚。
その4か月後に再婚。
・古い日付(離婚前)の公正証書遺言は有効か。
【回答の要旨】
・遺言書の作成後に離婚しても遺言書は有効となり得る
・遺言書が有効の場合でも後妻に遺留分侵害額請求が請求できる可能性がある
【ご質問内容】
一度離婚して再婚した場合の公正証書について
疑問があり質問いたします。下記概略です。
私の父が昨年他界し相続が発生しました。
相続人は、私(先妻の子)と後妻さんの2名です。
父と後妻さんは、平成8年に結婚しており、
平成10年に公正証書が作成されました。
平成13年に、父のDVが原因で調停離婚しているのですが、
離婚後4ヵ月に父と後妻さんは再婚しています。
離婚前に作成された古い日付のままの公正証書は、
どのように考えたらよいのでしょうか。
(ノエル)
※敬称略とさせていただきます。
【遺言書の作成後に離婚しても遺言書は有効となり得る】
遺言は作成後に自由に撤回できます(民法1022条)。
また、民法1023条2項より、遺言は遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合には、遺言を撤回したものとみなすとの規定があります。
しかし、「妻○○に~の財産を相続させる」という遺言書を作成した後に、妻と離婚するという「法律行為」をした場合であっても、必ずしも遺言と抵触するとは限らず、遺言作成当時の遺言者の真意を探究していく必要があります。
判例(最判昭和58年3月18日)では、遺言の解釈について、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言書作成当時の事情など諸般の事情を考慮して遺言作成当時の遺言者の真意を探究すべきという旨の判断がなされています。
また、他の判例(最判平成5年1月19日)では、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈すべきとの判示がされています。
よって、父が遺言を作成した経緯として後妻と婚姻関係にあることが重視されている等の事情があれば、その後、離婚したことが遺言内容と抵触し、遺言を撤回したとみなされる可能性もあります。
また、実際に遺言者と妻が協議離婚をした事例において、遺言は撤回されたとみなされた判例もあります(東京地判平成22年10月4日)。
しかし、本件では、父は後妻と離婚した4ヶ月後に後妻と再婚していますので、父が遺言を作成した経緯として後妻と婚姻関係にあることを重視していた等の事情があったとしても、再婚によって、父の遺言作成時の意思には反しないと判断され、遺言書が有効とされる可能性が高いでしょう。
なお、通常は、妻に財産を相続させる旨の遺言書を作成した後に、離婚をした場合は、上記のような問題が生じないように、遺言書を撤回したり、新しい遺言書を作成することが多いです。
新しい日付の遺言書を作成した場合は、新しい日付の遺言書の方が有効になります(民法1023条1項)。
【遺言書が有効の場合、後妻に遺留分侵害額請求が請求できる可能性がある】
父が作成した遺言書の内容が後妻に全ての財産を相続させるなど後妻に有利な内容である場合は、あなたは後妻に対し遺留分侵害額請求をすることができます(民法1042条)。
相続人は後妻と父の子であるあなたの二人ですので、あなたの遺留分は4分の1となります。
よって、あなたが父の遺産の4分の1に満たない財産しか相続できていないのであれば、後妻に対し遺留分侵害額請求ができますし、後妻が父の生前に父の財産を勝手に取り込んでいた場合は、不法行為に基づく損害賠償請求(若しくは不当利得に基づく返還請求)ができます。
また、父から後妻が父の死亡前の10年間の間に贈与を受けていた場合は、その贈与を受けた財産の価額を父の遺産の価額に算入し、あなたが相続できる財産を増やすことができます。
なお、遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った日から1年間行使しないとき、または、相続開始から10年を経過したときは時効により消滅してしまします(民法1048条)。
そのため、早めに後妻に対し遺留分侵害額請求の通知を送るなどの対応が必要です。
(弁護士 石尾理恵)