【質問の要旨】
母(軽度認知症)の預金を兄が使い込んでいた。
返還請求は可能か?
【ご質問内容】
10年前、兄が母親の面倒を亡くなるまで見るということで、預金を管理していました。
私は今後の大変さを考えて、一切を兄に任しました。
1年後、兄が面倒を見切れないということで、母親の面倒を放棄し、私が引き取りました。
そのとき、お金はこれしか残っていないということで、300万程の預金を受け取りました。
しかし、あることから母親の預金等の金額が、元々4500万程であったことが分かりました。
母親の銀行取引履歴を取り寄せ、調べてみると、兄が母親と行動を共にしだした15年ほど前から預金が次々解約され、母親名義の預金が一切なくなっていました。
私が受け取った300万は母親の介護等の費用で底をつき、仕方なく母親は生活保護をうけざるをおえなくなりました。
このことを母親に伝えると返還してほしいと言っております。
預金および面倒を見るということで使った家のリフォーム代・車の購入費用(約1000万円)を返還を請求することは可能でしょうか?
母親は引き取った当時は老人性うつ病で廃人のようでしたが、現在は元気になり、軽い認知はありますが、受け答えはしっかりしています。
ご教示ください。
【今回は母がご存命ですが・・・】
ご質問ではリフォーム費や車の購入費が誰のためのものかが明らかではありませんが、本回答では、兄が自分の家や車のためにお金を使ったものとして回答いたします。
今回のように、預貯金から本人の意思とは関係なく他人のために出金が行われていることを不正出金と呼んでおります。
今回は預金名義人である母がご存命のケースですが、今後母が死亡し、相続事件になった場合の対応とポイントはほぼ同じですので、本回答では相続事件における不正出金追及のポイントについて回答させていただきます。
【不正出金を調査する】
このような預貯金口座からの不正出金を取り返せるか否かを判断するには、次のようなポイントを確認していくことが必要であり、その証拠収集の結果次第、ということになります。
ポイントは次の①~③つです。
① 預貯金口座から多額の出金があること
② 出金の使途が不明であること
③ 出金者を特定する証拠があること
次に①~③の具体的内容を述べていきます。
【① 預貯金口座から多額の出金があること】
出金状況については、金融機関に入出金の履歴を問い合わせれば回答してくれます。
相続事件、例えば母が亡くなり相続預金となった場合は、子など相続人が必要書類をそろえて金融機関に問い合わせることで回答を得ることができます。
ただ、今回口座名義人である母がご存命ですので、お母さん自身が問い合わせれば回答してくれるでしょう。
そうして入手した入出金履歴を見ていくわけですが、出金額のすべてが不正出金、というわけではありません。
それは、生きている限り多少の生活費等は必要だからです。
生活水準にもよりますが、裁判所の傾向としては、毎月10数万円が出金されている程度では「生活費かもしれない」ということでは不正出金と認められないことが多いと思われます。
このことから、当事務所では1回あたり最低20万円以上の出金を調査対象にしています。
【②出金の使途が不明であること】
多額の出金があったとしても、それが同一名義人の別口座に送金あるいは預け替えされていたりすることがあります(たとえば、定期預金を解約して普通預金口座に振り替える等)。
又、お母さん自身の自宅修繕費等、本人の必要経費に充てられていることもありますので、このような出金は使途不明金から除外します。
このような振り替えや本人の必要経費を除いて残った出金こそが、不正出金なのです。
【③ 出金者を特定する証拠を見つけるのは難しい】
一番難しいのはこの点でしょう。
同居していた人物、今回は兄が自分で出金しリフォーム費などに使ったことを認めているなら話は簡単ですが、もし否認されればあなたの側で兄の出金を証明する必要があります。
この点については、使途不明だと思われる出金伝票のコピーを金融機関から取り寄せするといいでしょう。
その際、
①その伝票の署名は誰がしたのか、
②出金者は代理人を名乗ったのではないか
③その他金融機関の方で特記した事項は存在しないか、
などを確認しましょう(金融機関の中には、伝票に「免許証で本人確認」「長男が署名」などのメモを残していることもあります)。
【ATMの場合】
他方で、ATM(現金自動預払機)からの出金の場合、キャッシュカードを持っていた人物を確認し、出金した人物を特定していきます。
なお、出金時に預金名義人(本件では母)が入院中、あるいは意思能力が欠けており自力で出金できない状態だった場合には、当時の預金通帳やカードの管理者(多くは同居者)が出金した、という推測も可能でしょう。
【リフォーム代・車の購入費用(約1000万円)の返還請求について】
結局のところ、リフォーム代や車の購入費は、前記の点について、どれだけ確実な証拠を集めるかで決まります。
十分な証拠が集まれば、訴訟で返還を求めることも可能でしょう。
まずはしっかりと証拠を集め、その証拠を突きつけて兄に返還を求めるのが一番よい方法であり、それでも返還しないのであれば、弁護士に依頼して訴訟する方策を考えていただくとよいでしょう。