【質問の趣旨】
建築費用は貸金か贈与か?遺産を公平に分配するには?
【ご質問内容】
家内の実父は、約30年前に他界しており、更に1年前に実母も他界しています。
法定相続人は4人です。
長男は、約35年前に実親の家の新築の折、数百万円を借用書も無しに工面したと言っています。
そのお金を今になって「返して欲しい、しかも年5.5%の35年間の複利運用」条件を提示しています。
長男が中心となって作成した父の遺産相続協議の際、そのような負債があることは明らかにしておりません し、返済請求書もありません。
従って、あたかも親への贈与と思われてもおかしくないものです。負債なら、膨れ上がる前に手の打ちようがあったはずです。
今やその金額は、母親の預金(5千万円)でも不足すると主張する始末です。
まさかと思って、他の兄弟が、銀行(3行)に確認したところ、案の定、母親の死亡1年前からATMから引出限度額で毎日下しており、残額はゼロと判明しております。
亡き母は認知症の為、介護施設に入っており、その支払い等のため銀行カードを長男に預けていたようです。
本件は、母親の預金額に目がくらみ、総取りのシナリオを後付で描いたように思えます。
公平に遺産相続する方法をご教示頂けませんか。
【まず、お金を渡したということを証明してもらう】
最初に、長男さんがお金を貸したかどうかの確認が必要になります。
お金を貸したというのなら、当然お金の動きがあったはずです。
長男さんにまず、お金が動いたことの証明を求めましょう。
もし、長男さんがその点を証明できないのであれば、貸金の主張は無視して、遺産分割をすることになります。
【贈与か貸金か】
もし、お金をご両親に渡していることが証明されるのであれば、次にどういう趣旨でお金を渡したのかが問題になります。
返還してもらうという前提ではなかったのであれば、長男さんから両親への贈与になりますし、返還してもらう前提なら貸金になります。
建築資金ということですから、通常ならかなりの金額になります。
高額の金額にもかかわらず、借用書も作成していない、これまでの35年間返還されていない、という事実を考慮すると、貸金である可能性は極めて低いと思われます。
【複利はまずない】
長男さんは複利を主張されているようですが、そのように主張するのであれば、長男さんとしては貸金であることに加えて利息は複利であり、その利率は年5.5%で合意されていたということを証明する責任があります。
借用書も作らないようなとき、複利というような利息の合意が認められる可能性は皆無に近いと思います。
【貸金や贈与と特別寄与の関係】
仮に贈与があったとすれば、両親はもらった金銭は返還不要ですが、長男さんとしては、そのような金銭をあげたことで、長男さんが特別寄与をしたと主張することができます(【コラム】寄与分とは?をご参照ください)。
もし、貸金を立証できた場合には、長男さんはご両親に返還を請求できるということになりますが、ただ35年も前の貸付であれば、特段の事由(例えば時効中断等)がない限り、時効で消滅している可能性が高いです(なお、貸金が時効で消滅していた場合でも、長男さんが特別寄与をしたと主張できる余地があります)。
【今後の取るべき対応について】
お母さんの判断能力がない段階で長男さんが預貯金を引き出していたのなら、お母さんは長男さんに不当利得の返還請求権を持つことになります。
お母さんが死亡した場合、その返還請求権は各相続人がその法定相続分に応じて取得し、長男さんに請求することができます。
長男さんの態度を見ていると、簡単に返還しそうな感じは受けませんので、遺産分割調停や訴訟等の法的手続きが必要だと思います。
ただ、訴訟して勝訴しても、財産がない場合には強制執行もできません。
もし、長男さんの財産(例えば抵当権のついていない土地家屋など)があることが判明しているのであれば、長男さんがその財産を隠してしまう前に、財産の移動を禁止する仮差押え等の手続きを取る必要があります。
この手続きはむずかしい点がありますので、弁護士に相談されるといいでしょう。