兄弟3人で遺産分割の調停中です。
20年前に長男が自宅の増築費用として、父から700万円の贈与を受けているので、この金額を長男の特別受益として認めてほしいと調停員に要望しました。
調停員が証拠はありますかと尋ねてきたので、長男が書記官に提出した回答書に「振込みで受領」と記載している事が証拠と言ったところ、それだけでは不充分と言われました。他にどのような証拠が必要なのですか。
長男は増築費用700万円は借用したもので、生活費の不足分で返済したと言っている。
遺産分割の対象は預金と特別受益のみです。
次男は預金の1/3のみで了解しており、長男の特別受益については問題として取り上げることに反対しています。
【贈与か貸金か】
自宅を新築した際、お父さんから金700万円が送金されたことについては、長男も認めています。
問題は、その送金分が、《贈与》か《貸金》なのかという点です。
その送金分が長男に対する《贈与》であれば、特別受益として、遺産に繰戻される可能があります。
しかし、貸金であるとすると、返済の問題と、返済していない場合には、消滅時効の問題が生じてきます。
長男は《その後、生活費援助で返金した》という主張ですので、貸金だったという立場です。
貸金であると主張するのなら、長男の側で返済を証明する必要があります。
又、送金時期が20年前ですので、消滅時効期間《10年間》が経過しており、時効で貸金返還請求権は消滅しているということも将来、主張するかもしれません(参考までにいえば、特別受益では消滅時効という問題は発生しません)。
【贈与の証明はあなたがしなければならないが・・】
長男は貸金だと主張し、あなたは特別受益であると主張しているので、貸金であること及びその弁済をしたことは長男が証明する必要があります。
しかし、反面、あなたとしては、贈与を主張している以上、その点を証拠で証明する必要があります。
普通のケースなら、贈与を主張する側としては、長男が一度も金銭を返還していないこと(贈与なら返還不要であるため)や、借用書等の契約関係書類がなかったこと(貸金なら借用書があることが多い)等を証拠で明らかにする必要があります。
当時、贈与税の申告をしていたというのであれば、その申告書の控えなどを入手されると決定的な証拠になるでしょう。
又、返済しているというのなら、長男にその証拠を提出してもらうように要請し、その裏付けがないというのであれば、弁済の証拠なしとして、《貸金》ではなく、《贈与》だったのだという主張をすることも可能でしょう。
【長男の弁済の主張についての反論】
今回の質問の件では、長男は生活費の不足分で返済したという主張をしているようです。
この点については、そのような事実が本当にあるのかの調査をするために、お父さんの預貯金口座の履歴を取り寄せすることも考えていいでしょう。
履歴を確認して、お父さんが十分な年金等を得ている、あるいはかなり多額の預貯金等があるということなら生活費の援助はいらないでしょう。
又、お父さんの預貯金額が毎月減額しているというような事実が判明したのなら、生活費はその預貯金から出ており、長男はなんらの援助もしてはいないという推測ができます。
援助しているとしても、その長男の援助は借金の返済ではなく、《親族間の扶養義務の履行》として、長男が実行したものであり、借金の返済ではないと反論することも可能です。
【調停は裁判ではない】
20年前の送金が贈与か貸金か、そのいずれについても証明は困難な場合が多いです。
質問のケースはあなたのご主張のように贈与の可能性も高いように思います。
しかし、調停は裁判ではありません。
贈与か貸金かを最後まで争うのもいいでしょうが、勝訴するとは限りませんし、弁護士費用も必要です。
不満が残っても、調停委員の意見も参考にし、中間的な解決として、送金分の一部を特別受益として算入する等の方向を検討してもいいでしょう。