※同じ方から2つに分けてご質問いただきましたが、回答は1つにまとめています。
【質問の要旨①】
後見開始前の不正出金はどうなるか
【ご質問内容①】
認知症の母に成年後見人が付いています。(弁護士)
弟2人が、成年後見が開始される2ケ月前、母が認知症になったのを境に、母の預金、国債、年金型生命保険を2,700万ほど勝手に解約しています。
財産保全処分の審判も、成年後見申したてから1ケ月ほどで出ました。
成年後見人と面談しました弟達は、母がくれると言ったので、もらっただけだと言いました。
解約したもので300万で、それ以前にも3000万ほど預金を引き出しています。
2人は、3000万円は母から贈与されたお金だと、認めたとのちに、成年後見人からお聞きしました。
ですが、現時点でも預金が、1億以上あるため返還請求はしないという後見人の判断です。
弟達がもらったというお金は遺産相続時に特別受益として扱う物との判断です。
そこで質問なのですが、現在成年後見人が返還請求をしないと、このお金が、不当利得というものに当たる場合時効がくると、3000万+3000万のお金は遺産相続時には無効になるのでしょうか?
裁判所に申し立などした方がいいのかと思っていますが、よく判りません。教えてください。
【質問の要旨②】
自分が受取人であった保険を成年後見人が解約した
【ご質問内容②】
母に,成年後見人(弁護士)がついております。
母の財産に生命保険の、変額個人個人年金保険GFというものがあり、母自身で加入しました。
一時払い方式で500万円支払、目標額550万円年金支払い開始日 平成29年4月21日となっています。
母がもしも、平成29年4月21日までに亡くなると、死亡保険金受取人である私が550万円を受け取る事になっていました。
平成29年4月22日以降は母の年金として支払われるという保険です。
成年後見人の元に保険会社から目標金額に達したので、年金受け取り開始日を早めることができる旨連絡がありました。
このまま置いておいても1円も増額しないと思い込まれ、解約手続きされ、1年後5、503、630円振り込まれました。
3、630円増額されていました。
母から私に残す保険だからと、聞いておりました。
最近、後見人になぜ解約したのか聞きましたら、【置いていても1円も増額しないと勝手に思い込みました。】と言われました。
平成29年4月21日までにもしも母が亡くなったら、遺産相続の分に組みこまれるお金でなかったが、現在は組み込まれています。
私が遺産相続人になった時には、成年後見人にこの保険の解約の損失550万円を損害賠償できますか?
【債権は10年間の時効で消滅】
弟さんたちが引き出した多額の預金が、お母さんの意思に基づかない場合(お母さんが認知症で判断能力がない場合を含みます)、お母さんは引き出した弟さんに対して不当利得返還請求をする権利(債権)を持つことになります。
この権利は10年で時効にかかりますので、お母さんが長生きした場合、時効消滅する可能性があるというのは質問で指摘されているとおりです。
【就任前の不正出金についての成年後見人の動きは鈍い】
不正出金の被害者はお母さん自身であり、あなたとしては法的には何らの権利もなく、後見人が動かない限り、不正出金分の回収もできません。
成年後見人にはお母さんの財産を保全すると役目がありますので、お母さんの預貯金からの不正引き出しがあれば、引き出した者に対して返還を請求するべきだとも言えます。
しかし、成年後見人は将来の財産保全に動くが、過去の財産の散逸については中々動こうとはしないというのが実情です(正確に言えば、後見人次第です。私の経験でも後見人が過去の不正出金を取り戻したというケースが1件だけですが、ありました)。
なお、成年後見人は裁判所が選任するものであり、後見人が職務を果たしていないのであれば、裁判所に事情説明書的なもの(上申書という題名でよい)を提出し、その中でどんな不正出金があったのかを証拠をつけて提出するといいでしょう。
成年後見人が成年被後見人の財産を横領していたというケースですが、裁判所の後見人に対する監督が不十分であったことから後見人の監督裁判所に損害賠償を命じた判決もあります。
参考判例:広島高判平成24年2月20日 家事審判官が、成年後見人が被後見人の財産を横領していることを認識していたのに、これを防止する監督処分をしなかったことは、家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くとして裁判所の責任を認めた。
そのため、上申書が出てくれば、裁判所としても、そのまま放置するのではなく、後見人から意見を聞く可能性が高く、場合によれば後見人が不正出金分の回収に動き出すことも考えられます。
【特別受益と消滅時効】
不正出金分を返還請求する権利は10年で時効にかかりますが、特別受益には時効はなく、10年以上前の生前贈与分でも遺産に持ち戻されます。
ただ、特別受益は被相続人の意思に基づく贈与などで問題にされるものですが、質問の場合は被相続人の意思とは関係なく引き出されたものであり、特別受益ではなく、単なる不法行為等の請求権の問題にすぎないと見れば、10年間で消滅時効になるということも考えられますので、ご留意ください。
【後見人の保険解約等の行為には口は出せない】
お母さんが生きておられる以上、あなたはお母さんの財産について、法的には何らの権利権限もありません。
後見人としてお母さんの財産の維持・保全という立場で対応すればよく、あなたの保険金受け取りにまで配慮して保険を維持する義務はありません。
ただ、お母さんとしてはかなりの財産をお持ちであり、判断(意思)能力があった当時にあなたのことを思って保険に入り、あなたを受取人としていたのであれば、財産が極端には減ったような場合ではない限り、保険解約をする必要もないようにも思います。
しかし、仮に後見人が保険解約をし、それによって受取人であったあなたが損害を受けることになるかもしれないとしても、あなたが法的に損害賠償できません。
このことは、お母さんが、判断能力がある時点で保険を解約した場合に、あなたがお母さんに損害賠償をすることができないのと同じことだと思えば理解がしやすいでしょう。