【質問の要旨】
・兄夫婦が母の預貯金を不正出金していたが、民事上は一応解決している
・しかし、どうしても兄夫婦の行動が許せない
・刑事罰を与えたいので、詐欺罪にできないか?
【ご質問内容】
昨年5月に母が亡くなりました。
相続人は兄と弟の私、2人です。
母は生前、約13年前に公正遺言証書(私には内緒で、おそらく兄に誘導されて)を作成していました。
内容は母の死後、初めて、私は知ったのですが、土地、家屋(時価6千万円ぐらい)は全て兄に、預貯金は全て私に、という内容でした。
その行為が許せなく、弁護士を通じて、立証できた金額1900万円あまりを返却してもらいました。
つまり、民事的には一応解決となっています。
然しながら、未だに、兄夫婦の今までの行為が許せなく、刑事的に何か罰則を与えることは、出来ないかと思っています。
そこで、質問なのですが、兄の妻が、平成23年12月6日に、ゆうちょ銀行の窓口で母の定額預金70万円を解約しています。
それは、母の委任状(母の偽署名をしたもの)を作成して解約しています。
その70万円はゆうちょ銀行の母の普通預金口座に一旦入金されていますが、1か月ぐらいで、2~3回に分けてキャッシュカードで全額引き出されています。
その時、母は介護施設に入所していて、外出することは出来ない状態でした。
また、介護日誌では、認知による奇怪な行動が解約日の前後に見られます。
また、認知度の長谷川式テストでも解約の意思表示など出来る意思判断は不可能な状態でした。
この内容で、詐欺罪は成立しますか?
ご回答お願いします。
【犯罪ではあるが処罰されない】
今回は文書を偽造し、偽の書類を使って銀行をだましてお金を引き出した、というお話ですので、法的には詐欺罪と有印私文書偽造罪が問題となります。
まず詐欺罪ですが、(母が署名した事実がないのに)母が署名した委任状だと偽って銀行をだまし、お金を引き出した場合には銀行に対する詐欺罪が成立します。
なお、もしキャッシュカードで引き出した場合は窃盗罪が成立します。
しかし、これらの罪については、法律上は親族相盗例という制度が適用され、親子間の詐欺罪や窃盗は処罰されません(刑法251条、同244条準用)。
親族相盗例とは、親子間や同居の親族間の窃盗や詐欺について処罰しないという規定であり、家庭内のもめ事は家族間で話し合って解決するべきであり、警察のような国家権力が介入するべきではない、という考え方から導入された制度です。
そのため、詐欺罪や窃盗罪で刑事告訴しても、警察が捜査を開始することはまずありません。
【銀行は告訴しません】
次に偽造罪ですが、兄が母に無断で、母の署名を装った委任状を作成すれば有印私文書偽造罪が成立し、これを銀行に提出した時点で偽造文書の「行使罪」が成立します。
次に、有印私文書偽造罪については親族相盗例が適用されないため、銀行などが告発すれば警察が動き出す余地が一応残っています。
しかし、大量の預金事務を処理する銀行は、告訴すれば銀行員が何回も何回も警察の事情聴取に呼び出されることになり仕事になりません。また、告訴することで銀行が相続人同士の争いに巻き込まれる懸念があり、銀行が相続人などを警察に告訴することはまずないと考えられるといいでしょう。
【民事上の争いをするほかない】
このように、警察が動くことは期待できませんので、今回の様な不正出金は民事上で争うほかないのが実際のところです。
そのため、本件では弁護士を通じて民事上一応の解決されているようですので、おそらくお金の返還の際に、(立証できた)「1900万円を返還すれば、これ以上の請求はできない」という約束が行われたのではないでしょうか。
弁護士を通じて不正出金を取り返すことができたのもおそらくは長谷川式認知テストなどをきちんと踏まえられたからだと思いますし、それ自体は正しい方法を取られたものと思われます。
同様の質問をいただく方は多く、みなさま刑事責任を追及できないことに多くの不満を寄せられていることは重々承知しておりますし、お気持ちも十分に理解できます。
ただ、民事上も一応の解決を経ているのであれば、刑事責任を追及することは諦めざるを得ないでしょう。