【質問の要旨】
・亡母の預金から3000万円以上を、兄とその子供がATMで出金。
・預金通帳は母が持っていた。
・母が書いた出金メモはあるが、実際の出金額と約1000万円以上の差がある。
・不正出金につき裁判をしても負けるか?
【回答の要旨】
・判断(意思能力)の確認が必要ではないか
・母の手帳のメモがある分は無断出金とはいえないが、生前贈与で特別受益になる可能性がある
・差額の1000万円は無断出金で、相続分に応じて請求できる可能性がある
・通帳を管理できていたかは極めて疑問
・相続に詳しい弁護士に相談される必要がある
【ご質問内容】
去年亡くなった母の預金の不正出金がありました。
85~90歳までの5年間に3000万以上も引き出されていて、母と同居していた兄とその子供がATMで引き出したことを認めました。
兄に説明を求めたら母の手帳を渡されて「○月○日10万円」と書かれていたりしていました。
でも、通帳の出金総額と手帳の出金総額に約1000万円以上の差があるので、近くの法律事務所に相談に行きましたがその弁護士さんからは、出金についての記載が半分以上あるから裁判は負けると言われました。
そして通帳は誰が持っていたかを聞かれ、母が持っていたと伝えるとなおさら無理だと言われました。
なんとなくモヤモヤするのですが仕方ないことなのでしょうか?
【ご質問内容の追加】
法律相談を受けた時にその弁護士さんから「通帳を本人がもっていたなら裁判所は訴えを認めない」と言っていました。
母は自分で通帳を持っていたので無理みたいです。
でも1ヶ月に5~60万引き出されていて普通の高齢者が使う額じゃないので怪しいのですが。
その弁護士さんは、母が植物人間だったり、亡くなってた後だったり絶対に母が引き出せない状況じゃないと裁判はできないと言っていました。本当でしょうか。
もし裁判ができる可能性があるなら、植物人間でもなく、母が通帳を持っていたとしてもそれを跳ね返せるのでしょうか?
(カタアク)
※敬称略とさせていただきます。
【判断(意思能力)の確認が必要ではないか】
5年間で預貯金から3000万円もの多額の出金がなされた、その時の母の年齢が85~90歳と聞けば、母に判断能力があったのかどうかが気になります。
ただ、質問はその点に全く触れていませんので、深入りは避けますが、念のために通院していた医院や病院などのカルテを取り寄せすることを考えていいケースです。
【母の手帳のメモがある分は無断出金とはいえないが、生前贈与で特別受益になる可能性がある】
母の手帳に約2000万円の出金のメモがあるようです。
この分については、母が出金を認めていた可能性があります。
ただ、出金を認めていても、母のために使われていないのなら、その出金分は兄が取得していた可能性があり、生前贈与と理解することができます。
法定相続人への生前贈与は、遺産分割においては特別受益として遺産に持ち戻すことができますので、その点を主張されるといいでしょう。
又、母の死亡時にめぼしい遺産が存在しないというのなら、遺留分減殺請求をして、特別受益分2000万円を遺留分減殺の計算の対象となる遺産に持ち戻すという主張をしてもいいでしょう。
【差額の1000万円は無断出金で、相続分に応じて請求できる可能性がある】
問題は差額の1000万円ですが、この分についてはメモがないというのなら、母の知らないうちに出金された可能性があり、無断出金と主張できる余地があります。
母は無断出金者に出金額の返還を請求できる権利(不当利得返還あるいは不法行為に基づく損害賠償請求権)を有することになります。
母が死亡した後は、この請求権は法定相続分に応じて相続人に相続されますので、あなたは出金者に相続分に応じた金額を返還請求されるといいでしょう。
ただ、母にも、当然ながら生活費がかかるので、その分は1000万円から控除する必要がある可能性を考慮されるといいでしょう。
【通帳を管理できていたかは極めて疑問】
相談された弁護士は母が通帳を管理していたのなら、請求はますます困難と回答されたようです。
しかし、管理とはどういう意味なのでしょうか。
管理とは言いながら、約5年間に3000万円も出金があったという事実、しかも同居する兄らがATMで2000万円の出金をしていた事実を考えると、キャッシュカードは兄らが自由に使える状態であり、母が預貯金をきちんと管理していたとは到底言えない状態です。
管理ができていなかったというのが本当のところではないかと思います。
【相続に詳しい弁護士に相談される必要がある】
今回の質問で正確な回答するには、例えば、
① 出金された金がどういう使途に使われたのか?
② なぜ、母のメモの記載している分と記載されていない分があるのか?
③ 母のメモは、出金ごとに記載されたのか、あるいは一時にまとめて記載されたものか?
④ 冒頭の認知症の有無、程度
など、今回の案件について訴訟の結果を予測するには、資料を綿密に検討し、又、いかなる主張ができるのかを判断することが必要です。
そのため、相談料はかかっても、相続に詳しい弁護士に法律相談をされることをお勧めします。