【ご質問のまとめ】
40年ほど前に私のお金を800万円使い込んだ兄が、先日亡くなりました。
兄は1億円の財産を遺し、すべて姉が相続しました。
お金を取り返すことはできないですか?
【ご質問内容】
兄弟は8人で私は末っ子です。
去年長男の兄が亡くなり、その兄には私が若い頃40年前貯金をしていた800万円使われていましたが返してもらえないまま亡くなりました。
遺産は1億万円位あったそうです。
しかし相続人は姉になっていました。
それから兄は奥さんには先だたれてます。
子供もいませんでした。
証人は沢山いますが、借用書がないのがだめかなと諦めようと思っていても何か悔しくて何とかならないものでしょうか!?
【40年前の使い込みの返還請求について・・・時効で消滅している可能性が高い】
わかりやすくするために、まず、お兄さんが現在も生きておられるとして、考えてみます。
あなた自身の預貯金をお兄さんが使いこんだということですが、それがあなたに無断であったのなら、あなたとしてはお兄さんにその使い込まれた金額の返還請求が可能です。
その根拠は、①不法行為に基づく損害賠償請求及び②不当利得返還請求権です。
但し、請求権には消滅時効があります。
消滅時効の期間は次のとおりです。
上記①の不法行為であれば使い込まれたことを知ってから3年間です、ずーっと、使い込みを知らなかった場合には使い込みの時点から20年間です。
②の不当利得の場合には返還請求できる日(使い込みの翌日から)10年間です。
現在まで40年間が経過しているということであればいずれにしても消滅時効にかかりますので、お兄さんが消滅時効と主張するのであれば、請求はできません。
【消滅時効にならない・・時効中断がある・・場合】
ただ、お兄さんが使い込みを認めていた(但し、あなたがその点を証明する必要があります)のであれば、その認めた時点から10年以内なら消滅時効は完成しません。
これを時効の中断といいます。
そのように請求を認めた事実がないかどうか、例えば最近10年間以内にお兄さんから使い込みを認めたような謝罪の書面を送付されていないか、あるいはそのような内容を録音したことがないかどうかを確認されるといいでしょう。
もしあれば、それで時効中断になるかどうか、弁護士に相談されることをお勧めします。
【時効中断している場合はお姉さんに請求する】
以上に説明したことを前提に、本件について考えてみます。
もし、あなたの持っている請求権が時効で消滅していないのなら、お兄さんに請求できることになるはずですが、本件ではお兄さんは既に死亡されており、相続人がお姉さんということのようです。
その詳しい事実関係は明らかでありませんが、おそらくお兄さんが《すべての遺産をお姉さんに相続させる》という遺言書を作成されていたのでしょう。
もしそうであれば、お姉さんは、お兄さんの遺産全部を相続するとともに、その債務を承継します(民法990条、民法896条:末尾に記載した条文をご覧ください)。
そのため、あなたとしては、お姉さんに対して債務を承継したとして請求をすることが可能です。
【兄弟には遺留分減殺請求がない】
質問者の方はご存知と思いますが、念のために遺留分がないことも記載しておきます。
ある法定相続人に遺産の全部が行くような場合、他の相続人には遺留分減殺請求が認められています。
しかし、兄弟姉妹には遺留分減殺は認められておりません。
そのため、本件では1億円の遺産がお姉さんに行ってもあなたは遺留分減殺請求ができないということになります。
〔参照条文〕
民 法
(包括受遺者の権利義務)
第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。