【質問の要旨】
相続放棄したら仕送りしていた金銭はどうなるのか
【ご質問内容】
父の死亡後、多額の負債の連帯保証人をしていたことがわかり、子である私たちきょうだい三人全員が相続放棄をすることになりました。
遺産は預貯金40万円ほどと軽自動車1台。ほかにはありません。
父は年金と私たちきょうだいからの仕送りで生活していました。
相続を放棄してしまうと預貯金から仕送り分を返してもらうことはできない、という解釈であっていますか?
【仕送りは貸金ではない】
親子間では困っていたら助け合う義務(扶養義務といいます)があると定められています(民法第877条第1項。末記条文を参照ください)。
子が親に仕送りするような場合にはこの扶養義務の履行に該当すると考えられます。
そのため、子から親に対する仕送りは貸金ではなく、返還を要しない贈与となり、親は返還義務を負いません。
そのため、お父さんの遺産から返還を受けることができないという結論になります。
【参考説明:子の親に対する貸金と子の相続放棄との関係】
前項で述べたように、親に対する仕送りは貸金ではないと考えられます。
ただ、本件の質問を離れて、仮に子が親に貸金があった場合、相続放棄との関係がどうなるかも説明しておきます。
相続放棄とは遺産の相続をしないということです。
子であるあなた方が相続放棄をした場合、お父さんの遺産である車や預貯金40万円を相続することはできません。
しかし、子が親に対して貸金のような債権を持っていた場合、子が相続放棄しても、その貸金債権はなくなりません。
相続放棄は親からの遺産をもらわないということであって、あなた方が従来から持っている親に対する貸金債権までなくなることはなく、あなた方は親の遺産に対して貸金の請求ができます。
【参考説明:相続財産管理人の選任が必要】
問題は、この請求をした場合に、誰が支払いをしてくれるかです。
相続放棄をしない場合、法定相続人が遺産の権利者になりますので、その権利者の権限として遺産を自由に処分でき、債務の支払いもできます。
これに対して、相続放棄をした場合、その放棄した相続人は遺産を自由に処分する権限はなく、債務の支払いをすることができません。
相続放棄をしない法定相続人がいれば、その人が遺産と債務を承継しますので、その人に支払い請求をすることになります。
もし、すべての相続人が放棄をした場合で、貸金を有している債権者が債権の支払いを求めたいのなら、その債権者が家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立をする必要があります。
選任された相続財産管理人が遺産を管理・調査し、債権者に支払いをしてくれます。
ただ、財産管理人選任の申立をする場合、原則として、予納金として裁判所に90万円から100万円を納付する必要があります。
今回の質問の場合、遺産が少ないのでそのような手続きはするメリットはないでしょう。
なお、財産管理人が選ばれた場合、この申立をした債権者の債権の弁済が優先されるわけではなく、債権額に応じた平等弁済になることも理解しておかれるといいでしょう。
【勝手に遺産から弁済をうけた場合の扱い】
相続放棄したにもかかわらず、その放棄した方が遺産から勝手に貸金の返済を受けた場合、その相続人は遺産を取り込んだとして、相続放棄の効力がなくなることがあります。
相続放棄が無効になった場合、その相続人は、お父さんの債権者から請求があれば債務の支払いをしなければならないこともありうることにご注意ください。
民法 第877条
(扶養義務者)
1.直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
(以下略)