【質問の要旨】
遺産を相続しない承諾料(ハンコ代)の相場
【ご質問内容】
父方の叔父が亡くなり、叔父の書いた遺言書により叔母が家、土地、預貯金、生命 保険、を相続する事になりました。
司法書士事務所より父が他界しているため遺産分 割協議書が送られてきて、印鑑証明書とともに実印を押して、送り返して欲しいとの 事でした。
私の方には貰える現金は無く、謝礼として、商品券5千円が同封されてい ました。
謝礼金の相場としては適正なのでしょうか。
ちなみに私には叔母がいくら相続するのかは知らされていません。
※敬称略とさせていただきます
【兄弟には遺留分がないが、念のために遺言書の確認が必要】
配偶者や子のいない叔父が死亡したのであれば、叔父の兄弟である、あなたの父が相続人になります。
父が既に死亡しているのであれば、父の子(すなわちあなた)が代襲で相続人になり、叔父の遺産をもらうことができます。
ただ、叔父が遺言書を書いており、その内容が他の人に遺産を全部相続させるという内容であれば、あなたには遺産が来ることはありません。
これは兄弟には遺留分が認められない(民法第1028条、【コラム】遺留分とは)からです。
今回の質問の場合、遺言書に問題がないのであれば、あなたの同意や印鑑なしで登記ができるはずです。
にもかかわらず、あなたの印鑑が必要だというのはどうしてでしょうか、という疑念があります。
そのため、遺言書が本当に叔父の意思に基づくものか、あるいは遺言書作成人時に叔父に意思能力があったかどうかは念のために確認しておくといいでしょう。
なお、公正証書遺言であれば、原則として遺言書としての有効性については問題がないと思われますが、その場合でも遺言書の内容を確認しておく必要があるでしょう。
【承諾料の基準はこんな事情を考慮して決定する】
承諾料というのは、不動産登記をする場合や不動産からの立ち退きをするような場合に、登記をしたい人や立ち退きをさせたい人が出す金銭のことであり、登記などのときにはハンコ代ということもあります。
ハンコ代がどの程度が妥当かは、ケースにより異なります。
例えば借地権譲渡の場合のように借地権価格の10%程度という、ある程度の基準が決まっていることもありますが、多くの場合には金額が決まっていないと言っていいでしょう。
ただ、次のような点を考慮されることが多いので、金額決定の際に参考にされるといいでしょう。
① あなたの側に何らかの権利があるのか、ないのか。
もし、権利があるのなら、その権利を金銭的に換算した金額が承諾料になるでしょう。 冒頭に遺言書が有効かどうかを確認しなさいと言ったのはこのような観点からです。
② 手続きの手間を省くための承諾料なら、その手間を省くことにより得る相手方の利益
相手方に権利があるとしても、その権利を実現するためにはあなたの印鑑が必要なケースがあります。
例えば、遺言書があっても自筆の場合には、金融機関によっては、相続人全員の同意が必要というところもあります。
そのような場合、相手方としては、あなたの印鑑がとれない場合、裁判をせざるをえません。
裁判すれば時間や手間もかかり、又、弁護士(費用)も必要でしょう。 その手間や費用等を省くためにどの程度を出すべきかを考えることになります。
③ 相手方との人間関係も考慮要素である。
あなたと相手方とがどのような人間関係にあるかも承諾料に影響します。
いつもお世話になっている人なら、相手方の申し出た金額に反論はむずかしいかもしれません。
反面、そのような関係にない場合には、前記①または②も考慮した金額を請求してもいいということになります。
【今回の商品券は妥当か】
以下は私(弁護士大澤龍司)の私見ですが、参考にされるといいでしょう。
あなたに何らの権利がないとした場合、
① 遺産総額が10万円程度なら、今回の承諾料が商品券5000円でもやむを得ないとは思います。
② 遺産総額が100万円ということなら3~5万円という程度。
③ 遺産総額が1000万円ということなら20~50万円程度。
以上はあくまで長年の経験からくるものであり、これらの金額を基準にして具体的な事情で増減していくというのが私のやり方です。