【質問の要旨】
亡くなった母の遺産が少なすぎる。
母の生前中は、同居の兄が通帳、カード等を管理。
母に要する費用とは関係なく出金されていた可能性がある。
不正出金をどう立証できるか、又、兄は立証責任があるのか。
【ご質問内容】
亡くなった母の現金・預金が150万位しかありませんでした。
同居していた兄に確認したら「入院期間中は預金通帳、カードは管理していたが引き出したお金は病院で母に渡したが使途は一切わからない」とのこと。
5年間で約1,000万円がATMで引き出されていました。
1日に100万円の時もあります。
入院費用、自宅の光熱費など維持管理費はほとんど口座引き下ろしです。
母が病院で使うのはおやつを買う程度です。兄が直接取り込んだ証拠はありません。
母はほぼ寝たきりなので外出は出来ません。
母は軽い認知症はありましたが生活に支障が出るほどではありませんでした。
訴訟を考えています。
こちらが勝訴するため立証しなければならないことと、兄に立証責任があることを教えてください。銀行取引履歴は取り寄せてあります。
相続人は4名です。
なお入院前の10年間でも約1億円の使途不明金がありますが、こちらは母がまだ健康の時もあったので立証が難しく諦めています。
もちろん何かに投資した、高価な物を買った形跡はありません。
※敬称略とさせていただきます。
【証明は不正出金を主張する側にある】
遺産である預貯金口座から使途不明金(不正出金)があり、その返還を求める場合、その証明は返還請求を求める側にあります。
今回の質問では、不正出金があったと主張するあなたが証明する必要があります。
あなたが証明する必要があるのは、以下の3点です。
① 預貯金口座からの多額の出金が存在すること
② 出金した人が兄であること
③ 出金した金員を兄が使ったこと
以下、この点を順に述べていきます。
【多額の出金の存在を明らかにする】
まず、①の母の口座がわかっているのなら、多額の出金があることの証明は比較的簡単です。
母の口座の取引履歴を取り寄せ、いつどれだけの金員が出金されているかを確認すれば、使途不明金は簡単に把握することができます。
この取引履歴は既に取り寄せ済のようですので、多額の出金をチェックしていくことになります。
なお、本人の生活や入院治療費の支払いのため、ある程度の出金は当然必要になりますので、月額10~20万円程度の金額は不正出金とは評価できない場合がありますので、ご注意ください。
【兄が出金したことの証明も必要】
次に、各出金を誰がしたのかを明らかにする必要があります。
今回は、兄が通帳、カード等を管理していたということですが、訴訟にでもなれば、兄が《通帳やカードの管理はしていない》と言い出しかねません。
そのため、現段階で将来の訴訟に備え、兄が通帳、カード等を管理していたというような発言をするのをICレコーダー等で録音し、証拠として残しておかれるといいでしょう。
【出金した金員を誰が何に使ったのかを確認は・・】
今回、もっとも問題になりそうなのが、出金した金員を誰が何に使ったのかという点です。
兄が出金したことを証明できるのなら、《兄が自分で使ったのだろう》という推測も可能です。
そのため、裁判では兄の方が、母に渡したあるいは母のために使ったという証明をする必要が出てきます(法律的には《立証責任の転換》といいます)。
兄は裁判でどんな主張をするかは明らかではありませんが、あなたとしては、①入院中の母が金を使う必要はない、②病院で多額の金員を置いておくことはないという点を反論されるといいでしょう。
【入院前の10年間の約1億円の出金について】
なお、入院前の10年間の1億円の出金は母の健康なときの話ということであれば、兄の不正出金という可能性は少ないかもしれません。
しかし、母がそのような大金を使う可能性がないというのなら、出金伝票などを取り寄せ、その筆跡や代理人の有無など、兄が関与していたかどうかを確認する必要があるでしょう。
いずれにせよ、不正出金は話し合いで解決することは難しいです。
そのため、相続に詳しい弁護士に依頼し、必要な証拠を集めて裁判に臨まれるといいでしょう。