【質問の要旨】
・相談者以外の者に全預金を遺す遺言公正証書あり。相談者は負債300万円のみを相続するため相続放棄した
・葬式費用150万円を被遺贈人より受領したが、相談者は相続放棄しているので債権者からの請求は拒否できるか?
・葬式費用150万円の受領による贈与税納付が必要か?
【回答の要旨】
・遺産を使うと相続放棄ができない
・葬儀費用は喪主が負担する
・遺贈を受けた人からの贈与の性格
・150万円の受領による贈与税納付は必要であるが・・・
【ご質問内容】
本年被相続人は、全預金1000万円を私(唯一人の法定相続人)以外の者に遺贈するとの遺言公正証書を残し遺言執行人を指定して、亡くなりました。
負債300万円のみ相続となるため、私は家庭裁判裁判所に相続放棄をしました。一方、私は喪主として葬儀費用150万円を立替え払いしました。
その後被遺贈人から葬儀費用分150万円を贈与されることになりました。
この贈与受領が相続単純承認とみなされて相続放棄無効となることはなく、後日顕在化するかもしれない債権者からの請求を相続放棄を理由に拒否できると考えていますが、問題ないでしょうか。
又、150万円受領については、贈与税を納付すべきでしょうか、或いは遺贈とみなされるので、無税でよろしいのでしょうか。
(よしはる)
※敬称略とさせていただきます。
【遺産を使うと相続放棄ができない】
相続人が相続財産の全部又は一部を処分すると、単純承認したものとみなされ、相続放棄できなくなります(民法921条1号)。
また、相続人が一度は有効に相続放棄を行っても、その後に相続財産を処分した場合は、当該相続人の処分行為は単純承認とみなされ、相続放棄の効果は無効となる可能性があります。
さて、今回の質問のケースはどうなるでしょうか。
【葬儀費用は喪主が負担する】
まず、あなたが喪主として葬儀を主催したのであれば、その費用は喪主であるあたたが負担することになります。
そのため、あなたが葬儀費用として支払った150万円は《立替払い》したものではなく、あなた自身の支払うべき債務です。
【遺贈を受けた人からの贈与の性格】
まず、あなたが相続放棄を行った後に受遺者から150万円を贈与された場合、その150万円は受遺者からもらったものです。
この150万円は、もともとは遺産であった(例えば、被相続人の預貯金を解約したような場合)であっても、被相続人の遺産から受贈者のものになっています。
そのため、あなたとしては、遺産を使ったわけではありません。
あなたは被相続人の遺産からではなく、受贈者から贈与をうけたにすぎません。
そのため、あなたの相続放棄が認められないということにはなりません。
あなたの相続放棄は有効です。
【150万円の受領による贈与税納付は必要であるが・・・】
一人が1年間(1月1日から12月31日までの1年間)にもらう財産が110万円までであれば贈与税が非課税となります。
よって、本件では150万円の贈与を受けているので、法律的には110万円を超える40万円については贈与税の対象とはなるように思います。
贈与税課税があるとしても、その額が少ないので申告しない人も多いでしょうが、申告が必要かといわれれば、必要という回答になります。
(弁護士 石尾理恵)