【質問のまとめ】
父は長男に全財産の現金を預けて、その管理処分について長男に委任しています。
長男が勝手に使ってしまうことが心配です。
相続が開始した後に、法定相続分を主張することができますか?
【ご質問内容】
三人兄弟です。
15年前に母は他界し、その直後に父が長男に委任状を手渡した上で、全財産の現金を預けています。
委任状は全て父の直筆で書かれ、預けた金銭の管理と処分の一切の権限を長男に委任する旨と、委任状の効力は父の死亡を以て終了とする旨が記載され、作成年月日と氏名、拇印と実印が押印され、印鑑証明書も添付されています。
預けている金額は三千万円ですが、委任状の文面に金銭の「管理」のみならず「処分」まで書かれている場合、処分と題して、長男が勝手に消費してしまい、父の相続が開始された時点でその金額が目減りしていたとしても、その目減り分を長男に請求することはできないのでしょうか?
要するに、「預けたお金はお前(長男)の自由に使って良いよ」と父が言っているような気がしてなりません。
父に問い質しても、「長男に全て一任してあるから、口を挟むな」と言われる始末です。
父は昔から長男を頼り、溺愛していたことから、その一切の権限を委ねたものかと想像しますが、あくまでも委任状であり、遺言書でない以上、遺留分等に縛られることなく、堂々と法定相続分を主張することはできますか?
委任状の役割や効力の範囲がいまいちよく分からないため、処分の権限まで与えられたからと言って、兄が勝手に処分(消費)していた場合の対応が気になり心配です。
【弁護士により回答が異なる可能性があります】
今回の質問は弁護士により回答が異なる可能性があります。
あくまで私(弁護士大澤)の見解ということで理解ください。
まず、今回の質問ではお父さんが長男さんに「委任」したという前提になっています。
ただ、委任内容が明らかではありません。
具体的に言えば、何について委任したかが明らかではありまえん。
例えば使途についていえば、お父さんの病院費や生活費についての出金の管理を依頼したのか、それ以外の事項も依頼したのかが明らかではありません。
次に処分まで認めたということですが、現金の処分というのはどういうものでしょうか。
預かり現金からの支払いを認めたというのか、それ以上に長男さんの個人的の使途に使ってもいいというのでしょうか。
これらの点についてはより深く事情をお聞きした中で判断するべきことです。
ただ、現在の質問で記載された限度で次項のとおり回答をします。
【委任であるという点を重視した場合の回答】
今回は「委任」ということが前提になっていますので、その前提で考えます。
委任であれば、長男さんとしてはお父さんのために預かり現金を利用するという制限があるので、自由勝手に処
分した場合には委任の趣旨に反するということになります。
ただ長男さんが自由勝手に処分することを認めるのなら、委任という言葉を選択することはないでしょう。
預り金を私的に使用することを認めるのなら、それは委任ではなく、その分については「贈与」というべきものになります。
委任という言葉にこだわる限りでは、お父さんのために必要な使途にのみ使うべきであり、それ以外に長男さんが自由勝手に使うことを認めるという趣旨ではないと理解せざるを得ません。
なお、委任契約はお父さんの死亡した場合にはその効力を失うという内容になっています。
法律(民法)の委任契約の条文では、委任者が死亡した場合には委任契約は終了することになっています。
ただ、今回の委任契約では、そのような条文があるにも関わらず、わざわざ、お父さんが死亡すれば委任が終了するとされているのなら、その理由はやはり《私のために使ってほしい》とお父さんが考えたことによると推測できるのではないでしょうか。
【長男さんが勝手に使った場合の対応】
長男さんが自分の私的目的に預金を使ったということであれば、お父さんは長男さんに対して、委任契約で指定した目的に反して金銭を支出したとして、債務不履行に基づく損害賠償請求権を持つことになります。
お父さんが死亡されたが遺言書がなかった場合、各相続人はその相続分に応じて上記請求権を相続することになります。
あなたとしては相続したこの権利を行使し、相続分に応じた金額を長男さんに請求するといいでしょう。
【贈与の趣旨も含んでいるとした場合】
仮に委任契約が、長男さんが私的に使うことも認めていると理解できるのであれば、贈与的な部分も含んでいるということになります。
この場合、長男さんが私的に使った部分は贈与と同視していいでしょう。
そのため、その長男さんの私的使用分は生前贈与になり、遺産に持ち戻して、遺産分割することになります。
また、遺言書があり、遺留分を計算する場合には、遺留分の計算の基礎にその贈与金額を算入することもできるでしょう。