【質問の要旨】
・父よりリフォーム資金500万円程(非課税)を贈与
・父と特別受益の持戻し免除の覚書を締結している
・特別受益の持戻しは免除となるか?
【回答の要旨】
・持ち戻し免除の意思表示の方法に決まった形式はない
・持ち戻し免除の意思表示は書面など形に残るようにしておく
・持ち戻しの免除をしても遺留分の算定には加算される
【ご質問内容】
父からリフォーム贈与減税以内の贈与を5百万円程受取。
贈与申告をした場合、父と特別受益持戻しの免除の覚書を締結しております。
特別受益免除になりますか。
父は90才になります。
(コンサル)
※敬称略とさせていただきます。
【持ち戻し免除の意思表示の方法に決まった形式はない】
あなたが父から生前贈与を受けたリフォーム代の500万円が特別受益に該当する場合、父の特別受益の持戻し免除の意思表示があると、父の遺産分割の際にその500万円は父の相続財産に加算せず、残りの財産を父の相続人間で分割することになります。
そして、持ち戻しの免除の意思表示の方法は、決まった方式はなく、口頭だけでも法律上は問題ありません。
また、明示か黙示かも問いませんし、贈与の場合であれば、贈与と同時ではなく後から意思表示することでも可能です。
【持ち戻し免除の意思表示は書面など形に残るようにしておく】
もっとも、父の持ち戻しの免除の意思表示があったというためには、そのことをあなたが証明する必要があります。
そのため、父の持ち戻し免除の意思表示があったということを証明するために、父に「〇年〇月〇日、○○に贈与した500万円について、持戻しを免除する。」という書面を書いてもらうなど、形に残るようにしておくべきでしょう。
本件では、父が特別受益の持戻し免除の覚書を書いているということですので、持ち戻しの免除の意思表示があったと認められる可能性があります。
もっとも、父が90歳と高齢ですので、持ち戻し免除の意思表示をした当時、認知症などで意思能力が無かったのではないかということも場合によっては問題となります。
以上は、父の持ち戻し免除の意思表示があった場合の遺産分割の説明です。
【持ち戻しの免除をしても遺留分の算定には加算される】
特別受益にあたる生前贈与額は、持戻し免除の意思表示があったとしても、遺留分算定の基礎財産に加えられます(最高裁平成24年1月26日決定)。
つまり、父の持戻し免除の意思表示がある場合、父の遺産分割の際には生前贈与がなかったものと同様に扱われますが、遺留分(一定の相続人の保障された最低限の相続分)の計算の際には、特別受益にあたる生前贈与額を遺留分算定の基礎財産に持ち戻して計算されます。
なお、相続法改正により、相続人に対する生前贈与については、相続開始前10年間に行われたものだけを遺留分算定の基礎となる財産に加えることが規定されました(改正民法1044条3項)。
仮に、父の相続人があなたとあなたの兄の2人だけという相続関係で、父の遺産が1000万円、あなたが父の亡くなる前の10年の間にリフォーム代500万円の生前贈与を受けていたと仮定すると、兄の遺留分額は、以下の計算式の通り375万円となります。
《計算式》
兄の遺留分額
=(父の遺産1000万円+生前贈与500万円)×兄の遺留分割合4分の1
=375万円
(弁護士 石尾理恵)