【質問の要旨】
父が掛金を支払った保険の解約返戻金は特別受益か
【ご質問内容】
父を被相続人とし、兄と妹の私が相続人です。
父は生前、父が契約者で兄を被保険者とする(受取人は不明)生命保険に加入しており、掛け金は父の口座から引き落とされていました。
その後、父の存命中に契約者が兄に変更されましたが掛け金は父の口座からの引き落としのままでした。
そして、父の存命中に保険が中途解約されたのですがその際の解約返礼金690万円はすべて兄が受け取っております。
兄はそのうちの600万円を父の口座に振込み、父の遺産は2000万円ありました。
それを理由に、2000万円から600万円を差し引いた金額が遺産であると主張しております。
保険を中途解約した時点で父は存命中であり、掛け金は全て父が支払っていたわけですから兄が受け取った690万円は父の遺産とみなされるのではないのでしょうか。
また、受け取った兄に対する特別受益とはみなされないのでしょうか。
※敬称略とさせていただきます
【生命保険の名義変更は父の意思に基づく限り有効です】
生命保険契約は、父と生命保険会社の契約です。
その契約者である父がその意思でする限り、契約者の名義を兄に変更することは有効です。
【解約返戻金は兄が取得するが、生前贈与になる可能性がある】
父がその時点までに父が払い込んだ保険料については、保険契約が解約された場合、解約返戻金が支払われます。
この解約返戻金は、新たに契約者になった兄が受取れることになります。
とすると、今回の解約返戻金(690万円)は、父から兄から与えられる利益であり、実質的には生前贈与と扱っていいと思われます。
【生命保険金の受取と名義変更による解約返戻金の関係】
父が死亡したとき、受取人が兄であった場合、兄が受け取る生命保険金は遺産にはならず、生命保険金は遺産分割の対象にはなりません。
その理由は、死亡保険金は、相続とは別個の生命保険契約により、受取人が取得する財産だからです(当ブログQ&A №299参照)。
しかし、今回の場合には、父の死亡によるのではなく、父が生前にした行為により、兄が解約返戻金を取得できる立場になったのです。
そのため、兄に特別受益ありとして、その分を遺産に持ち戻して、遺産分割するということになります。
【特別受益は90万円】
ただ、兄は父の口座に600万円を入れたということです。
この入金がどういう趣旨でなされたのか明らかではありませんが、この入金分は父の遺産となると考えれば特別受益は90万円になります。
結局、90万円をお兄さんの特別受益として遺産に持戻し、父口座に入金された600万円を加算して算出された遺産総額が2090万円ですので、その2分の1の1045万円が、あなたが受け取る金額になります。