【質問の要旨】
・26年より認知症の父が先日亡くなった。
・29年公正証書にて全ての遺言を無効に。
・翌年5月に後見人が決定した。
・直筆の遺言書が有り検認手続きされたが、日付が曖昧なので無効の手続きをしたい。
・常に公正証書で遺言書を書いていたのに手描きの遺言書は有効か?銀行からの出金を止めることは可能か?
【回答の要旨】
・公正証書遺言と自筆証書遺言に優劣はなく、後に作成されたものが優先します。
・成年後見人の作成した遺言は無効となるのが原則です。
・父の自筆証書遺言で銀行から預金を引き出される可能性があります
【ご質問内容】
【題名】
遺言書は書かせたもの勝ち?
【ご質問内容】
父は26年より認知症です
29年公正証書にて全ての遺言を無効に
翌年3月に後見人申請5月に決定その後直ぐにもう一人の相続人により即時抗告
6月には後見人登記の流れあり
先日父が亡くなくなりましたが、直筆の遺言書が有り検認手続きされました。
日付が曖昧なので無効の手続きしたいのですが
常に公正証書で遺言書書いているのに手描きの遺言書が有効ですか
銀行から出金を止めることできませんか
(にこちゃん)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
1.公正証書遺言と自筆証書遺言に優劣はなく、後に作成されたものが優先します
今回のケースでは、相談者の父は平成29年に公正証書遺言を作成しており、その後、令和3年に亡くなった際に手書きの自筆証書遺言が発見されています。
遺言は、公正証書遺言と自筆証書遺言で優劣はなく、後に作成されたものが優先します。
そのため、仮に、上記公正証書遺言と自筆証書遺言が両方とも有効になされたものであり、自筆証書遺言の方が後にされたものである場合は、自筆証書遺言が優先します。
2.日付のない遺言書は無効です
遺言には有効要件というものがあり、日付のない遺言書は無効となります。
今回発見された自筆証書遺言は、日付の記載が曖昧ということですが、仮に、日付が全くないのであれば、無効ということになります。
また、一応日付があるような場合であっても、記載の仕方によっては無効となる可能性があります。
たとえば、「〇年〇月吉日」という日付の記載を無効とした最高裁の判決(昭和54年5月31日判例)があります。
なお、今回のケースでは、自筆証書遺言が検認の手続きを経ていますが、この手続きは遺言の有効性を確認するものではありません。
そのため、検認手続きの後であっても、日付の記載がないということで遺言書の無効を主張することは可能です。
3.父(成年被後見人)が作成した自筆証書遺言の有効性
意思能力を欠く状態で作成された遺言は無効です。
相談者の父は平成26年から認知症となっており、平成30年には成年後見人を選任されています。
成年被後見人(成年後見人のついている父)とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(民法7条)をいい、意思能力とは「事理を弁識する能力」であり、少なくとも成年後見人の選任以降は意思能力がなく、遺言書は作成することができないと考えられます。
そのため、もし遺言書の日付があったとされる場合で、その日付(正確に言えば遺言書作成の日が)後見人の選任より後であれば、まず、無効になるでしょう。
ただし、このような父であっても、判断能力が一時的に回復しているときであれば、医師2人以上の立会いがあれば遺言を作成することができます。(民法973条)
4.父の自筆証書遺言で銀行から預金を引き出される可能性があります
自筆証書遺言は、以上のように無効になるケースがあります。
ただし、金融機関としては、検認を経た自筆証書遺言による預金の引出しについて、相続人が預金の払い戻しにきた場合、払い戻しに応じる可能性があります。
その場合、事前に金融機関に連絡し、自筆証書遺言の有効性が争いになっていることを伝えて、預金の引き出しに応じないように申し入れすることが多いです。
この場合、一刻でも急いで金融機関に連絡が必要です。
また、電話とともに、書面で申入れをしておくことも大事なことです。
そのような場合には、金融機関にもよるでしょうが、自筆遺言書での預金払い戻しにストップをかけるところも多いでしょう。
なお、仮に、他の相続人が自筆証書遺言による預金の引出しをしたという場合、無効な遺言によって相続財産を取得したとして、遺言の無効確認訴訟及び不当利得返還請求訴訟を提起して法定相続分の預金を取り戻すという手段が考えられます。
(弁護士 山本こずえ)