【質問の要旨】
母が死亡し、全ての遺産を一人の相続人に相続させる遺言書が存在。
相続人間で不公平がある場合、母の死亡保険金は遺産と認められないのか?
【ご質問内容】
・父(既に死亡)の遺産(土地建物1500万)→長男が相続)
・母(先日死亡)の遺産は預貯金のみ1000万。(専業主婦のため、原資は父の遺産の預貯金)
・相続人は長男と私。
先日母は、「全ての遺産を長男に相続させる」旨の遺言書を残し死亡しました。
長男は、預貯金だけでなく、死亡保険金(生命保険)を約1000万円も受け取っています。
死亡保険金が遺産にならないことは調べましたが、その割合が大きいときや余りに不公平な時は、訴訟に於いて、遺産と認められる事があると知りました。
父の相続時に土地建物は長男が相続しましたが、その他の一切の遺産については「家以外は何もない」と取り合ってもらえません。
その内、母が余命宣告されたので、改めて父の遺産について問いただした所、父の遺産の預貯金は「全員で協議の上、母が相続した」「分割協議書は作成していない。日時も忘れた。」と主張しています。
兄は、父の遺産の土地建物(1500万円)と生命保険1000万円を受け取り、母の遺産の貯金(750万円)を相続します。
引きかえ、私は父の遺産も何一つもらえていないばかりか、今回母の遺産の遺留分しかもらえません。(およそ250万円)
このような場合は、上記の不公平に当たりませんか?
死亡保険金1000万円は、遺産と認められないのでしょうか?
【父と母の遺産を整理】
今回の質問では、生命保険の死亡保険金が父の死亡時のものか、母の死亡時に支給されるものかが明らかではなく、どちらとも読めます。
ただ、父の相続については既に遺産分割が終了していること及び今回の質問が母の遺産分割をきっかけにされていることから、母の契約した生命保険の死亡保険金であるとして回答します。
【生命保険が遺産とされる場合(裁判例)】
ご指摘の通り、生命保険は原則として遺産ではないものとして扱われ、受取人となった人物(今回は長男)が単独で全額を受領できます。
ただ、この点に関する最高裁判所の裁判例では「保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には例外的に保険金も特別受益として持ち戻すことが可能であるとの判断が示されています。
ここでいう民法903条とは、特別受益の遺産への持ち戻しに関する規定です。
この判例では、不公平が民法903条の趣旨に照らし《到底是認することができないほどに著しい》ものであると評価すべき《特段の事情》と判断される場合にのみ、保険金の遺産への持ち戻しを認めています。
【具体的な数字でいうと・・】
問題は、どの程度であれば、《到底是認することができないほどに著しい》ものであると評価すべき《特段の事情》とされるのかです。
これまでの裁判所の判断では、遺産総額が約8423万円で、生命保険金額が約5150万円で、生命保険金の遺産総額に対する割合(5150万円÷8423万円)が約61%になるケースでは、持ち戻しを認めた高等裁判所の決定があります。
遺産総額に対する割合だけで判断されるわけではありませんが、遺産総額の50~60%以上なら、《特段の事情》に該当する可能性があるといっていいでしょう。
【本件の場合には・・】
母の遺産は預貯金が1000万円、生命保険金が1000万円ですので、生命保険金の遺産総額に対する割合は100%になります。
【計算式】 保険金1000万円÷遺産総額1000万円=100%
このように保険金の割合は100%ですので、著しく不公平と判断される可能性のあるケースということになります。
【その他に考慮される事情】
特段の事情の有無の判断には、前記のとおりの保険金額、遺産総額に対する割合の他に、
① 被相続人と受取人の同居の有無
② 被相続人の介護等に対する受取人の貢献の度合い
③ 各相続人の生活実態等
が考慮されます。
要するに、長男が介護に尽力した経過があるなど、多額の生命保険金や遺産を受け取ることも妥当といえるほどの事情があったことが立証された場合、保険金の割合が高くとも持ち戻しが認められないケースがあり得るということです。
調停や裁判等になれば、これらの点を調査の上、必要に応じて有利な点を主張されるといいでしょう。