【質問の要旨】
・遺産である不動産から発生する賃料収入を法定相続分に応じ、相続人で分配するところ、相続人の中で相続放棄が発生。
・相続放棄された法定相続分は、その他の相続人で分配するのか?不動産を管理している長男が取得するのか?
【ご質問内容】
お世話になります。
相続開始後に発生した法定果実(地代収入)が約1000万円ほどあり、現在実家の長男が保有しています。
これは、法定相続人(5人)が法定相続分に応じて取得すべきものですが、その放棄された分(200万円)は、
①その他の相続人(4人)で平等に分配取得できる。
②管理している長男が取得できる。
のどちらが正しいのでしょうか?
【賃料は当然に長男のものというわけではない】
相続開始後に発生した賃料を誰が取得するかという問題については、平成17年にでた最高裁判所の判決があります。
その内容は《遺産に賃貸物件がある場合、その賃貸物件につき遺産分割が終了するまで賃料については、各相続人がその相続分に応じて取得する》というものです(参照:【相続判例散策】遺産分割前の遺産不動産の賃料収入は、遺産分割によらず、当然に法定相続分に応じて取得される)。
なお、遺産分割が終了した後は、その不動産の取得者が賃料をもらうことになりますが、それまでの分は各相続人が法定相続分に応じてもらうことに変わりはありません。
そのため、今回の事案でも、相続開始後の賃料は当然に長男のものになるわけではなく、他の相続人は長男に対して、その法定相続分に応じた額の返還請求権を持っています。
【家庭裁判所に対して相続放棄をしていた場合には、①その他の相続人(4人)で平等に取得する】
《相続の放棄》をするためには家庭裁判所への申述手続が必要です。
今回の質問の中で「放棄された分(200万円)」とありますが、これが相続の放棄(家庭裁判所への相続放棄の申述手続)をしたという意味であれば、相続放棄をした者は、はじめから相続人とならなかったものとみなされます。
そのため、放棄した人以外の他の相続人のみが相続人であったことを前提にして、相続分に応じて取得することになります。
たとえば、5人の相続人A~Eがおり、Eが相続放棄をしたとすると、A~Dのみが相続人であったことになりますので、A~Dは4分の1ずつ(今回の質問でいえば250万円ずつ)賃料を取得することになります。
したがって、その放棄分を長男が全部取得するわけではありません。
【放棄者が長男に対して賃料請求をしないという趣旨であれば、②長男がその放棄分を取得する】
ただ、もしも「放棄」というのが、すべての財産の相続を放棄する「相続放棄」の意味ではなく、単に、長男に対して自分の分の賃料を請求することはしない(長男に対する賃料返還請求権のみを放棄する)という意味でなされたものであれば、別です。
上記の意味であれば、単に長男と放棄者との間で、「返還しなくていいよ」と合意しただけですので、その返還を要しない部分(200万円)は長男に帰属することになり、その他の相続人がその取り分を請求することはできません。