【質問の要旨】
遺産分割協議書で財産を相続した人が、遺産を生活費につかってしまった
【ご質問内容】
家族構成は父、母、子供4人(長男=兄 離婚歴あり現在は独身で別世帯。長女=私次女=妹 二男=弟
2年前父親が亡くなり、財産を母親、子供4人が相続するところですが、母親に家を購入してあげたい希望があり(母も強く希望しておりました)、
高齢である母の代わりに家の購入、父のお墓の購入手続きをしやすくする為に母、子供3人は相続を放棄して長男である兄一人だけに相続することに決め、遺産分割協議書を提出しました。
そして兄が母に家を購入するつもりでいましたが一度契約寸前まで行ったところ、兄と不動産屋担当者との相性が悪く、購入を断念してしまいました。
こうして1年半、母は貸家に住み続けましたが突然家で病死してしまいました(遺言はありませんでした)
遺産を管理していた兄に預金を問いただすと兄はほとんど預金を自分の生活費にしてしまったと言うだけで通帳どころか使い道もハッキリ言いません。
母へ購入してあげるべき家の代金を全額兄は自己消費してしまった上に父母のお墓も買う事が出来なくなりました。
私は兄の身勝手な行動が信じられなく許せません。
泣き寝入りしかないのでしょうか。
【相続放棄ではなく、遺産分割の問題】
質問には、お兄さん以外の法定相続人が《相続放棄》をしたとあります。
相続放棄は家庭裁判所へ申立をすることが必要ですが、今回はそのような手続きはせず、遺産分割協議で、お兄さんが遺産を一人で取得し、他の相続人は遺産をもらわなかったということだと思われます。
以下の回答は、この前提で記載していきます。
【遺産分割協議書の記載内容はどうだったのか】
遺産分割協議書に《お母さんに家を購入すること》が条件で記載されていた場合には、その条件を充たしていないのですから、お兄さんが遺産を取得できないことになります。
次に、条件というほどではないにしても、《お母さんに家を購入すること》が義務として記載されていた場合には、その義務をお兄さんが履行しなかったことを理由にして、遺産分割協議を解除できるのかという問題があります。
この点については、裁判例があり、遺産分割協議で定められた義務を履行しなかった場合でも、遺産分割協議は解除できないという結論でした。
ただ、この裁判例では、その義務を負った者に対して義務を履行しなかったことを理由として損害賠償を請求できる余地があるとしています。
なお、遺産分割協議書に義務として記載されない場合でも、その義務があったことが証明できるのであれば、損害賠償が請求できると私は思いますが、この点については異論があるかもしれません。
【他の相続人として何ができるか】
今回の質問の場合、お兄さんが債務負担者であり、お母さんが債権者になります。
お母さんはお兄さんに損害賠償を請求できる可能性がありました。
お母さんは死亡されたのであれば、あなたをはじめとする法定相続人が、お母さんの損害賠償請求権を法定相続分だけですが、相続します。
そのため、あなたがその相続した賠償請求権を行使できる可能性があります。
【専門家に相談されることをお勧めします】
今回のようなケースは相続人の間だけで解決するのは難しいです。
できれば法律の専門家である弁護士に相談され、遺産分割協議書の内容や合意に至る事情、更には不履行に関する事実経過を説明して、弁護士の意見を聞き、今後の取るべき方針を決定されるのがいいでしょう。
参考判例⇒
【相続判例散策】遺産分割協議で負担させられた義務を実行しないとき、分割協議を無効にできるか?(東京高裁 昭和52年8月17日決定)
遺産分割協議で負担させられた義務を実行しないとき、分割協議が無効になるのではなく、債務不履行による損害賠償を請求するべきである。
(最高裁判所:平成元年2月9日判決、東京高裁:昭和52年8月17日決定)