【質問の要旨】
亡くなった母の預貯金を不正に出金したと疑われているが、どうすればいいか。
【ご質問内容】
初めまして。よろしくお願い致します。
母が亡くなりました。
いわゆる孤独死になってしまい、警察が介入しました。事件も考えられるので、警察から頼まれた親戚が、私の到着前に通帳記帳をしてくれていました。
その後私が警察で通帳や印鑑等を受け取りました。
法事の後兄から、親戚から聞いた貯金総額と、私が提示した貯金総額に2000万近くの差がある。
不明金なので、銀行に取り引き開示請求をし、それから警察に届ける、と言われました。
通帳は、警察から受け取ったのは全てあり、兄には記帳済みの通帳も全部見せました。
葬儀等の収支、現時点の残金も伝えています。
通帳を見れば行方不明金などなく、親戚の見間違いとわかるのに、警察署、届け出と繰り返し言われました。
私のことを疑う、と言う言葉こそ使いませんが(紛失という表現をします)、私は疑われていると強く感じます(通帳はあるのですから)。
私の潔白の証明になると考えた通帳を、兄には不明金を確信したと言われました。
理解に苦しみます。
今は取り引き開示請求の結果待ちのようです。
説明してもわかってもらえず、精神的に参りました。
警察、届け出、と何度も書かれ、疚しいことをしていなくても、強い恐怖をかんじました。
相続の時はこの程度疑われるのは仕方ないことなのか、兄の言葉は何かの罪に問えるのかご教示願います。
【お兄さんを罪に問うことは難しい】
どうやらお兄さんは、お母さんの預金をあなたが不正に出金した(着服した)と疑っており、あなたは濡れ衣を着せられて不愉快な思い(あるいは怖い思い)をされたようです。
しかし、今回の様な相続のケースでは基本的に警察が介入することはなく、少々の言いすぎなどがあっても名誉毀損や脅迫などで警察が動いたという話は聞いたことがありません。
【あなたも罪に問われることはありません】
他方で、お母さんの預金をあなたが不正に出金した(着服した)と疑われている点についても、窃盗罪として警察が逮捕や起訴に踏み切ることはまずありません。
なぜなら、法律上、親子間(直系血族)の窃盗罪は処罰されないことが明記されているからです。
この点は当ブログNo.389、No.291、No.466にも同様の記事が掲載されていますのでご参照下さい。
(参考条文 刑法第244条(親族間の犯罪に関する特例)
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条(窃盗)の罪、・・・(中略)・・・を犯した者は、その刑を免除する。
なお、預金の場合は引き出された銀行が被害者という理解も可能ですが、銀行がこのような事案で警察に被害届を出したという話は聞いたことがありませんし、私どもが扱う事案でも警察が動いたケースはありません。
【そもそも証拠がないのでは?】
また、このような理屈の話を抜きにしても、そもそも不正に出金した形跡がなければ警察は動きようがありません。
法治国家である以上、証拠がなければ警察も強制捜査を行うことはできないのです。
【無実の証明は難しい】
あなたとしては、一刻も早く身の潔白を証明し、お兄さんの疑惑を解消したいというのが正直なところだと思います。
しかし、あなたが絶対に不正出金をしていないことを立証することはほぼ不可能です(我々弁護士の世界でも、無罪の証明は「悪魔の証明」とも呼ばれるほど、非常に困難なこととされています。)。
しかも、今回のお兄さんはもはや結論ありきで疑っているようですので、もはや何をしても聞く耳を持たずのようです。
このような場合、むしろ身の潔白を証明しようと努力することが疑いを深めてしまうことすらあります。
ただ、警察が動き出す可能性は極めて低いため、ここは耐えることに徹し、ただ身の潔白を証明する「気持ちがある」ことだけをお兄さんや周りの人に示し続けることがあなたの立場や不安を補うことにつながるでしょう。