【質問の要旨】
・父は2つの土地を妻と子供5人に分け与え相続させる遺言を残した
・父より前に妻、長男、四男が亡くなった
・亡くなった相続人への遺贈は無効と考えられるが
相続させる旨の遺言は「特段の事情」に当てはまるため
法定相続分で計算すれば良いのか?
【回答の要旨】
・受遺者が先に死亡した場合、当該受遺者に与えるはずだった遺贈部分は無効になる
・無効になった部分は、法定相続に戻るのが原則
・改めて遺産分割協議をすることも考えてみては?
【ご質問内容】
遺言者父は、二つの土地を妻と子供五人にそれぞれ持分を分け与え相続させるのみの遺言を残した
遺言者より前に四男、妻、長男の順に亡くなる
この場合、亡くなった相続人の持分は無効と考えられるが遺言に細かく相続人それぞれに持分を記載してある事が特段の事情にあたいするので法定相続分で計算するのが良いといわれているのですが
特段の事情に当てはまるのでしょうか?
(もも)
※敬称略とさせていただきます。
【受遺者が先に死亡した場合、当該受遺者に与えるはずだった遺贈部分は無効になる】
遺言者よりも先に受遺者(遺言により財産を受け取る人)が亡くなった場合について、民法には以下のような規定があります。
「第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
1.遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」
つまり、遺言者よりも先に受遺者が死亡してしまった場合には、遺贈が無効になってしまうということです。
ただし、「無効」といっても、遺言全体が無効となるわけではありません。
当該死亡した受遺者への遺贈(当該死亡した受遺者に与えるはずだった部分)についてのみが無効となります。
よって、複数人に対して遺贈する遺言の場合には、先に死亡した受遺者の部分のみ無効となり、それ以外の部分については有効のままです。
たとえば、Aという財産を長男に2分の1、次男に2分の1相続させるという遺言であった場合、長男が遺言者よりも前に亡くなれば、Aという財産を次男が2分の1相続することについては変わらず、長男に相続させるはずだった2分の1の部分のみが無効になるということです。
【無効になった部分は、法定相続に戻るのが原則】
その上で、無効になった部分はどう分けるのかといえば、法定相続に戻ることになります。
亡くなられた受遺者の相続人が相続するわけではありません。
過去の判例でも、「「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される」ため、「上記推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り」遺贈は無効になる(法定相続に戻る)と判断されています(最三小判平成23年2月22日・民集65巻2号699頁)。
今回の質問では、持分を細かく指定していることが「特段の事情」にあたり、法定相続分で計算するのがよいと言われているとの趣旨に読めます。
しかし、今回の事案では、《受遺者が先に亡くなっていた場合には、受遺者以外の他の人に遺産を渡したい》というような遺言者の意思を推測できるような「特段の事情」はないように思われます。
従って、無効になった部分については、法定相続分にのっとって分けるということになるでしょう。
たとえば先ほどの例で、長男が相続するはずだった2分の1については、遺贈が無効となるため、Aという財産の2分の1については、相続人全員(亡くなった相続人の代襲相続人も当然含まれます)とで相続分にしたがって相続されるということになります。
【改めて遺産分割協議をすることも考えてみては?】
法律上は上記の通りとなりますが、土地の共有は、共有者間でのもめごとにつながりやすく、簡単に売却もできなくなってしまいますので、避けた方が無難です。
父は子供たちのことを思い、例えば平等に財産を与えるなど、いろんなことを考えて遺贈するべきものと受遺者を決めた遺言書を作成したのだと思います。
それが、その子供たちの一部が亡くなったことにより、受遺者側(正確にはその代襲相続人)にあまりに不利益になっている場合もあるかもしれません。
そのような場合には、前提事情が変わっていますので、相続人全員で遺産分割協議をし、全員で合意ができるのなら、遺言に従わずに遺産を分けることも考えてみてはいかがでしょうか。
(弁護士 岡井理紗)