【質問のまとめ】
認知症で遺言作成能力がなくなっていた母の遺言書が出てきました。
三女が下書きをして、認知症の母を騙して書かせたものです。
そんなものを書かせることは犯罪ではないですか?
【ご質問内容】
母は当時認知症で遺言作成能力はありませんでした。
診療記録や介護記録や認知症の検査結果があります。
私長女は母から「三女に下書きをして来たから遺言書書けと言われて書いた」と聞いていましたが、検認時に初めて見ました。
次女の息子(たった一人の男の孫)に「墓を守って貰いたい為、不動産をその孫の名前にした」と聞いていました。
その言葉から「孫に遺贈する」内容だと思いました。
しかし検認された遺言書は遺贈の件も墓の話も一切なく、重い病気にかかっている次女に不動産(仏壇のある古い家)を押し付け、長女と三女に貯金を二分の一ずつ相続させるとの内容です。
三女は「お母さんの希望を尊重して下書きしてきた」と母に渡したとメールに書いてます。
要介護5の母は三女の下書き通りに書けば自分の希望通りになると必死で書いたと思われます。
意思ではないので遺言書を無効にするのは当然ですが、認知症の母に騙して書かせた三女に罪は問えないものでしょうか?
三女は親のキャッシュカード7枚作成し出金し返していません。
金融機関の取引履歴でわかっています。
この使途不明金を有耶無耶にする為にこのような遺言書を書かせたものと思います。
【詐欺になっても、処罰されることはない】
騙して遺言書を作成させたというのであれば詐欺になる可能性が考えられます。
ただ、仮に詐欺罪にあたる行為がなされたとしても、親子(法律的に言えば直系血族)間での詐欺は処罰の対象になりません(刑法 251条、244条。末尾に条文を記載しておりますのでご参照ください)。
【対応策は遺言無効と生前の取込分の返還を求める方法で】
刑法で処罰されないとなると、民事上の対応として次の2つの方策が考えられます。
①遺言書の無効を主張する。
お母さんについて認知症の検査がされているのであれば、その結果によっては遺言が無効とされる可能性があります。
その検査が長谷川式認知スケールなら30点が満点ですので、10点以下であれば意思(遺言)能力なしとして無効になる可能性が高いでしょう。
(【コラム】意思能力と長谷川式認知スケールに関する判例の紹介参照)
②次に、仮に生前に取込(無断出金)された分があるのなら、生前なら、お母さんがその出金者に対して不当利得返還請求あるいは不法行為による損賠賠償請求ができます。
お母さんが死亡された場合、これらの権利は相続分に応じて相続人が取得しますので、上記遺言の無効とともに、取込財産の相続分に応じた分の返還を求めるといいでしょう。
【弁護士との相談も考える】
いずれにせよ、認知症の程度の判断、カードでの出金をしたのが三女であるのかどうかなど証明も必要ですし、また、三女の行動から見て、話し合いで簡単に決着がつくようには思われません。
もし、可能であれば、相続に詳しい弁護士に事情を説明され、とるべき方策を協議されるといいでしょう。
刑法
(親族間の犯罪に関する特例)
第244条
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
(準用)
第251条 第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章の罪(詐欺罪等)について準用する。