母は認知症で父と二人暮らしをしていましたが、母が認知症になる数年前から父は愛人を作り、母が認知症になってから勝手に母の通帳から年金や貯金を引き出し、愛人に貢いでいたことがわかり、母親を施設に移し、まだ残っていた母親の財産を父の手に届かないところに移しました。
父は家族に発覚してからも愛人との関係は続けており、このような父に母親の財産を相続させたくないのですが、いい方法はございませんでしょうか。
【認知症でも意思能力がある場合には遺言書を作成する】
今回はお母さんが認知症ということですが、認知症の程度が軽く、意思能力がある(成年後見人をつける必要がない)というのであれば、遺言書を作成し、配偶者である夫以外の人に遺産を相続させると記載するといいでしょう。
ただ、この場合でも、お父さんは配偶者ですので、遺留分減殺請求をすると、遺産の4分の1はお父さんが取得することになります。
【意思能力がない場合には父が遺産の2分の1を相続する】
認知症の程度が重く、意思能力がないという場合には、遺言書を作成できません。
お父さんが認知症のお母さんのことを顧みず愛人に貢いでいるという話ですが、それでも離婚せず、戸籍上で夫となっている限り、お父さんはお母さんの相続人になります。
そのため、お母さんが死亡すれば、お父さんがお母さんの遺産の2分の1を相続します。
【欠格事由も見当たらない】
離婚以外にお父さんが相続権を失う方法としては、欠格という制度があります。
しかし、これはお母さんを殺したり詐欺や脅迫により遺言をさせたりしたなど、かなり重大な事由がない限り簡単には認められません。
お母さんの介護を全くしなかったとしても、欠格事由には該当しません。
【廃除の可能性があるかもしれない】
そのほか、お母さんに対して虐待を繰り返し、あるいは重大な侮辱を加えた、または著しい非行があった場合、お母さんとしては、お父さんの相続人の地位を喪失させる廃除の申し立てを家庭裁判所にすることができます。
愛人に貢いでいるというのが著しい非行になるかどうかですが、推定相続人廃除の申立てを認容した次のような裁判例があります(本件の場合、引用した判例ほどひどいケースかどうかは明らかではありませんが、参考にはなるでしょう)。
《参考判例:賭博行為を繰り返して作出した多額の借財をすべて申立人(被相続人)に支払わせ,かつ,妻子を顧みず,愛人と同棲して同女との間に男児をもうけ,愛人との生活を清算する意思もない推定相続人の行為は、「著しい非行」に該当する》
なお、この廃除の申立は被相続人の専属権(被相続人本人だけができ、それ以外の人は申立できない)である可能性も高く、もし、この前提が正しいとすると、お母さんが認知症で意思表示ができないとなれば、この申立も難しいでしょう。