妹(次女)家族(母子家庭二人共就業している。
娘は正社員)が、母名義の家に約10年間住んでいます。
家賃は月5万円で母の預金口座に入れていました。
以前、生活が苦しいということで、毎年50万円を5年間で250万円と敷金の30万円、それに子供の私立大の学費300万円(これは父から)を母から貰っています。
この度父が亡くなり、その家賃のことをうるさく言う人がいなくなったり、生活が苦しいと言うので、家賃を母や主人(養子縁組をして法定相続人)と私が相談して免除しようということになりました。
母は施設に入っており介護などの負担は3人ともありません。
母の口座管理や身元引受人は私(長女)が引き受けています。
今後、妹は母の家に母が生きている間、住み続けたいと言っており、その家賃が特別受益になるのかどうか?
また、亡くなった後、スムーズに立ち退いてくれるかどうか、何か取り決めをしておいたほうが(書類にして)よいのかどうか。
それと以前もらった250万+30万円は特別受益となるのかどうか。
あと、妹が母の家に入る前に私たち家族がその母の家に入っていました。
その入る際に、家をリフォームしてくれました。
約300万円掛かったそうです。
そこに私たち家族は9年ほど住まわせてもらいました。
もちろん家賃も支払っていました。
その後、一般の人が約10年住み、その後に妹家族が入りました。
その時のリフォーム代は、生前贈与だと妹は申していますが、どうなのでしょうか?
記載内容 家賃 免除 使用貸借と特別受益 家賃の猶予 立ち退き
【家賃の免除と特別受益の関係】
妹さんが、これまで払っていた家賃を今後は払わずにお母さんの家に住むことを、家の所有者であるお母さんが認めるとした場合には、これまでの賃料を支払う賃貸借契約から、賃料を支払わない使用貸借契約に契約が変更されたことになります。
この無償で使用する権利(使用借権)が特別受益になります。
特別受益としてどの程度の価額かになるかについては争いがあります。
支払いしなくてよかった賃料額を特別受益とするという見解がないわけではありませんが、賃料額を合計するとかなり多額になりすぎるということから、賃料額の総計を特別受益とはしないという見解が多いです。
賃料を免除ではなく、支払いを猶予し、被相続人であるお母さんの死亡時(相続発生時)に清算するということにすることも一つの方法です。
しかし、この場合には(使用貸借ではなく)賃貸借が継続しますので、次項の明け渡し請求が難しくなります。
【亡くなった後のスムーズな立ち退き】
使用貸借契約の場合でも、賃貸人が死亡しても使用貸借は終了せず、当然には立退きを請求することはできません。
そのため、使用貸借が終了し、使用貸人であるお母さんが死亡した場合には、建物を明け渡すという合意書を作成しておくといいでしょう。
使用借権には、借地借家法が適用されませんので、明け渡すという合意書が無効となることはありません。
ただ、裁判所のこれまでの判例を見ると、既に居住している者の立ち退きを認めることについては、かなり慎重であることも頭の隅に入れておく必要があるでしょう。
【使用貸借と特別受益との関係】
仮に賃料なしとする場合、前記のように使用借権の設定の利益が特別受益となるものと思われます。
ただ、土地の使用貸借の場合には、土地価額の1~3割程度の価額と評価できるのですが、家の使用貸借の場合には、その価額がかなり低くなります。
特に、本件では最初は賃貸借であったのに、使用貸借としたのですから、居住者の権利は、賃借権という強い権利から使用借権という弱い権利になっています。
そのため、使用借権の設定といっても、無償で使用できるようにはなったが、その反面、権利性を犠牲にしていることになり、それなりの設定の対価を支払っていることになります。
このことを考えると、使用借権の価額はかなり少ないものになる可能性があります。
【結局は・・】
賃料を確保するという方向で行けば賃貸借になり、明け渡しが困難になります。
しかし、賃料をもらわないという方向で行けば使用貸借になり、(賃貸借に比べると)明け渡しがしやすいが、賃料分を損し、しかも絶対に明け渡しが確実なものでもありません。
どちらを選ぶかは経営判断というべきものです。
賃料の支払いを猶予して(ということは相続時の明渡は求めない方向になる)、相続に清算するというのが、妥当ではないかと思いますが、この点はあなた方でご検討ください。
【リフォームは贈与ではありません】
家はお母さん名義ですので、そのリフォームはあくまでお母さんの家の価値が上がっただけであり、その利益を受けるのはお母さんです。
あなた方はなんらの金銭的な贈与を受けていません。
そのため、お母さんがリフォームをした家に最初に住んだというだけでは特別受益には該当しないでしょう。
【毎年50万円と敷金30万円は特別受益か】
妹さんは生活が苦しく、毎年50万円を5年間もらっていたということです。
月額にすると約4万円と少額であり、生活費の援助として扶養義務の範囲内とされる可能性が高く、又、お母さんとしては相続分の前渡しというような意図からしたものではないと思われますので、特別受益にはならないと思われます。
なお、敷金の30万円というのは、妹さんがお母さん名義の家屋を賃貸するときに支払うべき30万円を免除されたという趣旨で理解すると、この分も生活費の援助的な側面が強く、特別受益にはならない可能性があります。