【質問の要旨】
・父死亡。公正証書遺言では、自宅不動産は長男が相続。
・自宅の固定資産税未納のため、市が債権者代位により法定相続分で相続登記。
・長男が死亡し、公正証書遺言により長男の子が自宅を相続。
・長男の子が、自宅を自分の名義にするため、抹消登記請求。
・相談者は、長男の子から解決金を得るため、共有物分割請求をすることはできるか。
・なお固定資産税は、長男及び長男の子が分納。
【ご質問内容】
12年前に亡くなりました父は公正遺書を作成しています。
そこでそこに明記された相続人で貯金は分配済みです。
今問題になっておりますのは実家です。
公正書により長男が相続するはずでしたが未登記のうちに固定資産税未納で市により強制代位登記をされ当時の法定相続人5人が当分割で共同相続されています。(権利登記簿による)
長男の死により今孫(長男の子)が自分の名義にするため抹消登記のための手続きを要請してきました。
なお、固定資産税は分納しておりわたしたちへの和解金次第で完済するかどうか決めるようです。
わたしとしては固定資産税の5分の1の和解金のために共有物分割請求訴訟をしたいのですが可能でしょうか?
なお、実家は公正遺書により孫に遺贈すること、となっております。
私は代位のために債権者でもない一法定相続人ですが実家の5分の一の権利が代位されています。
なお私以外にもうひとりの法定相続人が和解金請求を長男の孫に要請しています。
債権者でない私の立場でできることをご教示下さい。
土地の鑑定は必要ですか?
よろしくお願いします。
※敬称略とさせていただきます。
【ご質問内容の整理】
ご質問内容を以下の通り整理して回答いたします。
① 父が死亡した。父の公正証書遺言によれば、自宅不動産は長男が相続することになっていた。
② しかし、自宅の固定資産税が未納の状態であったため、市が債権者代位により法定相続分で相続登記をしてしまった。
③ 長男が亡くなり、長男の公正証書遺言により自宅を相続することになった長男の子が、自分の名義に戻そうと、抹消登記請求をしようとしている。
④ 父の相続人としては、長男の子から解決金を得るため、共有物分割請求をすることはできるだろうか。
⑤ なお、実家の固定資産税は、長男及び長男の子が分納で支払っている。
【他の相続人が遺言に反した代位登記を前提に権利を主張することは難しい】
まず、結論としては、遺言の存在を知らない第三者ならまだしも、遺言の存在を知っている他の相続人が、遺言に反した代位登記を前提に権利を主張することは、法的には難しいと思われます。
以下、その理由を説明します。
【債権者代位による相続登記とは】
通常、相続登記をする場合には、相続人が申請するのが原則です。
しかし、相続人又は被相続人の債権者が、自らの債権を保全するために登記申請をすることも、例外的に認められています。
今回のご質問の事案でいうと、固定資産税の支払請求権を有する市が、相続人らの財産を差し押さえるため、まずは法定相続分通りに相続登記をしたということです(おそらくその後、市による差押え登記もされていると思われます)。
【長男は、遺言記載の事項を他の相続人に対して主張できる】
以上の通りの代位登記の仕組みからすると、法定相続分通りの代位登記がされているとしても、実体としては遺言書どおり、自宅は長男(長男が亡くなった後はそれを引き継いだ長男の子)のものです。
そのため、あなた方他の相続人が、相続登記に基づいて権利主張をすることはできません。
ご質問によると、共有物分割請求を考えておられるとのことですが、上記の通りあなた方は所有権等の権利を有しているわけではありませんので、「共有」の事実がなく、共有物分割請求はできません。
【ただ、長男の子から解決金を支払ってもらうことはありうる】
もっとも、ご質問によると、長男の子は抹消登記請求をしようとしているようです。
抹消登記をする際には、被相続人を登記権利者(実際には真実の相続人である長男の子)、相続登記の名義人を登記義務者として共同で申請する必要があります。
そのため、長男の子としては、相続登記の名義人であるあなた方の協力なしには抹消登記をすることができず、協力が得られなければ訴訟を提起して判決を得て、抹消登記をすることになります。
したがって、あなた方としては、この手続きに協力する代わりに、解決金としていくらかの金銭(長男の子が訴訟をする際には弁護士に依頼する必要があると思われますので、その弁護士費用相当額くらいが解決金として妥当なところかと思います)を支払うよう、長男の子に対して求めるとよいでしょう。
また、もしもあなた方が実家の固定資産税の一部でも負担してきた事実があるのであれば、あなた方は長男の子に対して、支払った固定資産税の返還を求める請求(不当利得返還請求といいます)をも合わせて行い、解決金や固定資産税分の支払があれば抹消登記に協力するという姿勢をとられるとよいでしょう。