【質問の要旨】
・母の保険金の受取人(父)が死亡している時は誰が受取人になるのか
・相続人でわけるなら、その保険料を支払い続けた相談者は掛け金を差し引いて残った金額を分けていいのか
【ご質問内容】
質問いたします。
先日亡くなった母の生命保険の受取人が父になっていました。
父は、33年前に亡くなっています。
基本契約の保険料払い込み期間(10年)が昭和58年5月17日で終了しました。
父が亡くなったのは、その三か月後でした。
以降、終身特約の保険料は平成27年4月分までの33年間、長男である私の銀行預金から支払ってきました。
特約の保険料は年額11,550円で、支払い合計381,150円です。
配当金は死亡保険金25万円を加えて2,139,645円です。
この保険金は他の法定相続人と分割する対象になるのでしょうか。
分割する場合、2,139,645円―381,150円=1,758,495円÷法定相続人数でいいのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
【契約条項の確認が必要です】
生命保険は保険会社と保険加入者との契約です。
そのため、保険の受取人の方が被保険者より先に死亡し、受取人が変更されないままに被保険者が亡くなったような場合に、誰に保険金を渡すかについては、契約で決まることです。
保険契約をした場合、小冊子を渡されますが、これは約款(やっかん)といい、この中に保険契約の内容が記載されています。
この約款の中に今回の質問のような場合について、保険金を受け取る権利が誰にあるかということが記載されていますので、確認されるといいでしょう。
なお、多くの保険では、死亡した受取人の法定相続人それぞれが《平等の割合》で取得すると定められているはずです。
もし、その約款がないというのであれば、保険会社に事情を説明して、約款を送ってもらうとよいでしょう。
【生命保険金は遺産ではないので、民法の相続分では判断できない】
万一、約款で決まっていない場合には、法律や裁判例などを参考にして決定することになります。
遺産については民法が適用され、通常は法定相続分に応じて遺産分けがされます。
ただ、今回のような《生命保険金請求をする権利》については、過去の最高裁の裁判例で《遺産ではない》と判断しています(【Q&A №298】「生命保険が遺産に含まれる場合とは」を参照)。
そのため、民法で定められた法定相続分に従って相続することはできません。
【保険法や過去の裁判例によって判断する】
まず、生命保険などに関する法律である保険法第46条には「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」と定めていますので、相続分全員が相続人になります。
次に、上記条文ではどのような割合で相続されるのかは記載されていませんが、過去の最高裁の判決で各相続人は平等の割合で権利を取得するものと判断しています(最高裁:平成5年9月7日判決。なお、この裁判例は旧法である商法676条2項に関するものですが、現在の保険法にも適用されます)。
そのため、約款に何らの記載がない場合には、生命保険金の請求権は各法定相続人が平等の割合で取得するという結論になります。
【あなたが支払った保険料の扱い・・立替金返還請求】
あなたは33年間で計38万円を支払っています。
この支払いは、本来、保険契約者である母が支払うべきものです。
それをあなたが支払ったのであれば、母の保険料を立替支払いしたことになります。
そのため、あなたは母に立替金を返還するように請求することができます。
今回、母が亡くなったので、母の負っていた立替債務は相続債務として、各相続人がその法定割合で負担します。
(立替金支払い債務は民法上の請求権であり、生命保険金請求権とは別個のものですので、遺産として民法に基づき相続されます)。
【具体的な計算】
以上の前提で、父の相続人があなたと弟の二人であったと仮定して計算してみましょう。
相続分はそれぞれ2分の1ずつですので、保険金2,139,645円を2分して、あなたと弟は1,069,823円を相続します。
次に相続債務については、立替金債務計381,150円を2分して、あなたと弟が190,575円を負担することになります。
そのため、あなたは保険金の半額(1,069,823円)と弟からの立替金返還債務の支払い分(190,575円)をもらうことができます。
弟は保険金の半額(1,069,823円)をもらうことができますが、立替金返還債務(190,575円)を支払う必要がありますので、結局、手元には879,248円が残ることになります。
【立替金の時効は10年】
ただ、あなたが有している立替金の返還請求権は立て替えたときから原則10年で消滅しますので、弟が時効を主張すると、現時点からさかのぼって10年分しか請求できなくなることになりますので、ご注意ください。
【寄与分の主張は難しい】
なお、弟が消滅時効を主張した場合、特別寄与という形で、時効で消滅した分を請求できるのではないかという疑問が生じます。
特別寄与というのは、子が被相続人である親の遺産の形成に大きな貢献をした場合に、子がその分、多くの遺産をもらえるという制度であり、時効とは関係なく、10年を超える前の貢献分でも請求ができます。
ただ、冒頭に記載したように、保険金はそもそも遺産ではないというのが判例ですので、遺産の形成に寄与したとは言えないでしょう。
結局、弟が消滅時効を主張すると、10年以上前の立替分は請求できないというのが結論になります。