【質問の要旨】
・父の遺産6千万円
・子の分も母が管理していた
・母に後見人がつき、返却を求めたら『裁判をしないと返せない』と言われた
・母の直筆で銀行の口座解約をしていることが発覚
・後見人から『時効だから返せない』と言われたが、時効の発生はいつからか?
【回答の要旨】
・事実関係を以下の通り整理して回答します
・本来は、父の遺産について遺産分割協議をする必要があった
・母に対して裁判により請求をする必要がある
・上記各請求権には時効がある
【ご質問内容】
父からの遺産が6千万ありました。
子の分は母がまとめて管理してました。
母に後見人がついた後返却を求めた所、裁判をしないと返せないと言われました。
この場合裁判は必要ですか?
後見人から証拠の提示を求められたので取引銀行に取引履歴証明書の依頼をしました。
平成26年6月4日付けの取引明細証明書で口座解約が発覚しました。
口座解約の伝票は母の直筆でした。
この場合時効の発生はいつからですか?
後見人からは時効だから返せないと言われました。
(あき子)
※敬称略とさせていただきます。
【事実関係を以下の通り整理して回答します】
いただいたご質問のみでは、事実関係が明らかでない点がありますので、今回の事実関係を以下の通りと理解した上で回答させていただきます。
・父の遺産が6000万円あった。
・父の名義のまま(?)母が事実上管理していた。
・平成26年6月4日に、父名義の金融機関の取引履歴を取得して確認したところ、母が父の名前を代筆して口座を解約していることが判明した(解約日及び解約が父の死亡より前か後かは不明)。
・母の後見人に対して、自身の相続分に相当する額の返還を求めたところ、①返還を求めるなら裁判をしてくれ、②もっとも時効なので返還はできない、と言われた。
【父の遺産について遺産分割協議をする】
まず、通常、父の遺産を相続人間で分けるためには、遺産分割協議をする必要があります。
具体的には、相続人全員で、父の遺産をどのように分けるか話し合って、「遺産分割協議書」という書面を作成し、その内容に従って、それぞれが遺産を受け取ることになります。
そのため、本件においても、母の後見人に対して、遺産分割協議の申出をし、父の遺産を調査・確定して分割方法を協議する中で、母が取り込んだ可能性のある預貯金(解約した預貯金)について返還を求めるのがよいと思います。
それでも後見人が返還に応じなければ、下記の通りの訴訟をすることになります。
【後見人が協議で応じてくれないなら、裁判により請求をする必要がある】
後見人は、母名義の財産をできる限り減らさないようにとの考えのもとに、家庭裁判所の指示のもと動いているため、家庭裁判所を納得させるため、遺産分割協議の中での解決ではなく、訴訟をしてくれと言われる可能性もあります。
その場合、子の立場としては、母が父の遺産を取り込んだということで、母に対して、母が取り込んだ額のうちの自身の相続分相当額について、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟もしくは不当利得に基づく返還請求訴訟をすることになります。
【上記各請求権にはそれぞれ時効がある】
ただ、上記の請求権には、時効があります。
具体的には、不法行為の時効は、母の取り込みの事実を知った日から3年、もしくは取り込み日から20年のうちの短い方であり、不当利得の時効は、取り込みがなされた日から10年です。
今回の事案は、法律上、不法行為として請求することも、不当利得として請求することも可能ですので、どちらか時効が成立していない方で請求すればよいですが、不法行為でいえば、平成26年6月に取引履歴を取得した時点で「取り込みを知った」ことになるため、現時点で3年の時効は成立してしまっています。
また、ご質問内容からは、母が父の口座を解約した日は不明ですが、現時点で口座解約日から10年以上が経過していれば、不当利得の時効も成立しているということになります。
そのため、口座解約日によっては、裁判により請求をしても、後見人から時効を主張され、取り戻せない可能性があります。
(弁護士 岡井理紗)