【質問の要旨】
・母の預貯金から兄が不正出金。兄は贈与を主張。
・母の長谷川式は10点で、認知症との診断。
・母が遺言を理解できる旨の診断書作成を医師に依頼したが、断られ、弁護士との委任契約を理解できる旨の診断書も断られた。
【回答の要旨】
・生存中は、不正出金の返還請求は母のみができる
・長谷川式10点では判断(意思)能力なしの可能性が高い
・今、すべきことは、後見人の選任でしょう
・兄がもらった分は、将来の遺産分割に遺産に持ち戻される
・証拠集めもしておくとよい
【ご質問内容】
母の預貯金を管理していた兄が、不正出金し、自分名義の通帳に100万入金、兄嫁に16万使用させ、その分は、返済。
500万ちかくあった預金は、280万に減り、2年前に、満期になった100万は店頭で受取取得。
返済要求に対してもらったと主張。(証拠はない)
母の記憶力の低下が、気になり、病院を受診し、弁護士との委任契約の理解の診断書をお願いしましたが、アルツハイマー型認知症と診断され、長谷川式の点数が10点でした。
病院の先生は、好意的で診断書を作成かしてくれようとしていましたが、公正証書遺言も重ねて考え、遺言の理解の診断書(簡単な内容の物)まで、お願いしましたら、結局、両方、断られてしまいました。
現在は、私の家の近くの施設に入居し、今後の、母の生活のためにも、不正出金の返済をしたいのですが、母の状態での医師の診断書の取得は、難しいのでしょうか?
(バラ好きな母)
※敬称略とさせていただきます。
今回は母がまだご存命の案件ですので厳密には相続案件ではありませんが、相続案件でも同じことが問題となりますので、認知症と不正出金の問題として回答します。
【生存中は、不正出金の返還請求は母のみができる】
この点はすでにご理解されていることと思いますが、母の生存中は、預貯金口座からの不正出金の返還請求ができるのは母のみです。
たとえ子であっても、あなた自身が返還請求することはできませんので、この点はご注意ください。
【長谷川式10点では判断(意思)能力なしの可能性が高い】
弁護士に依頼するのなら、母自身が依頼する必要があります。
その場合、母には判断(意思)能力が必要です。
長谷川式認知スケールは30点満点ですが、母の検査結果が10点となれば、判断(意思)能力がかなり衰えているようです。
そのため、意思能力がないということで、弁護士に依頼もできないことも考えられます。
また、仮に遺言を作っても無効と判断される可能性はかなり高いといえるでしょう。
【今、すべきことは、後見人の選任でしょう】
あなたの立場から言えば、早急にすべきなのは、これ以上の兄の使い込みを防止することです。
そのためには早期に後見人選任の申立てをされるといいでしょう。
後見人が選任されると、財産は全て後見人に移され、不正出金は防止されます。
なお、長谷川式認知スケールは、精神科あるいはメンタルクリニックでなくとも簡単に検査できるので、お近くの開業医に検査してもらい、そのテスト結果をつけて、家庭裁判所に申立てをするといいでしょう。
ただ、後見人はその選任前の不正出金につき、その返還を求めるということは少ないと考えていいでしょう。
特に今回の質問のように、兄がもらったものだと言えば、後見人はそれ以上の追及はせず、あなたに対して、《母が亡くなったのちに、相続問題として争ってくれ》ということになりそうです。
【兄がもらった分は、将来の遺産分割に遺産に持ち戻される】
不正出金の場合、その返還請求権は法定相続分に応じてあなたも相続しますので、母が死亡した場合に兄に請求をされるといいでしょう。
なお、兄がもらったと言っているのなら、それは生前贈与で特別受益になり、その金額が遺産に持ち戻されることになります(生前贈与(特別受益) )。
【証拠集めもしておくとよい】
ただ、いつどのような出金があったのか、それを兄が(不正に取得したのであるか、もらったのであるかは別として)取得して、自分の用途に使用したことはあなたが証明する必要があります。
そのため、裏づける資料を集め、将来の裁判の証拠として提出できるように、今から準備をされておくといいでしょう。
具体的には、録音などの方法も駆使することも考えていいでしょう。