【質問の要旨】
母が死亡。(父はそれ以前に亡くなっている。)
姉に全財産を譲るという内容の遺言書あり。
どうすればよいか。
【ご質問内容】
昨年母親が亡くなりました。
父親は十数年前にすでに他界しております。
私には姉が一人おります。
姉は現在社会人、大学生2人の娘と夫の5人家族で私のほうは小学6年生の息子と主人の3人家族です。
母の病院の付き添いなどの面倒は主に姉が行ってきました。
私の方は育児期が重なり主に週末など行ける時に息子の顔を見せに行くという形で関わってきました。
母が亡くなってから姉より、実は数年前に母から遺言状をもらっていたと聞かされました。
もらう際、「財産は全部あなたに」といった内容の遺言状であると聞かされながらもらったそうです。
そうはいっても、ということで一度は財産は等分にしようということになったのですが、実家の片付けをする過程で意見の不一致などが重なってきたところで「やっぱり検認するから」といわれ手続きにかかっているそうです。
姉はそれまでにも母より子供の学費や生活費の援助を相当額うけていましたし、もっと遡れば子供の幼少期には母は定期を買って足しげく姉のところに通い面倒をみておりました。
つまり、過去からずっと持ちつ持たれつの関係でした。
私の方は子供の頃から冷遇、姉は母の愛情を一身に受けておりました。
悔しくてなりません。
遺言状の存在を知りながら教えてもらえなかったこと、姉が生前に受けてきた恩恵。
最後にとどめの一発、どう考えたらよいのでしょうか。
自分の尊厳を守りぬく方法を教えてください。
【まずするべきことは遺言書の確認です】
質問では、姉は遺言書があると言っておられ、検認の手続きをされる方向のようです。
公証役場で作った公正証書遺言の場合には検認が不要ですので、遺言書は自筆でかかれた自筆証書遺言だと思われます。
あなたとしては次の点を確認する必要があります。
① まず、本当に遺言書が存在するのかを確認する。
② 遺言書の内容がどのようなものかを確認する。
③ 遺言書が有効かどうかを確認する。
自筆証書遺言の場合、法律に定められた書式に合致しない場合には、遺言書は無効になります。
たとえば、ワープロで作成したものは効力を持ちませんし、日付が抜けている場合も効力がありません(ただし、民法が改正され、平成31年1月13日以降に作成された遺言については、遺言書のうち、財産目録については自筆要件が緩和されています「相続法改正6 自筆証書遺言の方式緩和」参照)。
【遺言書を入手して、有効性を確認する】
自筆証書遺言の場合、姉が家庭裁判所に検認の申立をします。
裁判所は遺言書を開封し、その内容を他の法定相続人等に見せます。
この裁判所の検認手続は遺言書が出てきたことを他の法定相続人に見せるというだけの手続きであり、裁判所がその遺言書が有効であるかどうかの判断はしません。
そのため、検認手続がなされたとしても、遺言書が有効になるものではなく、あなたとしては検認後にその遺言書の有効性を争うことができます。
あなたとしては、遺言書の検認に際して裁判所が作成する検認調書(遺言書のコピーが付けられています)をもらい、有効な遺言書かどうかを判断されるといいでしょう。
なお、その判断ができないというのであれば、相続に詳しい弁護士に法律相談され、遺言書が有効かどうかについての見解を聞かれるといいでしょう。
【遺言書が有効な場合の対処法・・まずは遺留分減殺請求をする】
仮に遺言書が有効なものであり、その内容が姉に遺産全部を相続させるというものであっても、あなたには、本来の法定相続分の半分(相続人があなたと姉だけだとすると4分の1)の限度で遺産をもらえる遺留分減殺請求という制度があります(なお、民法が改正され、令和元年7月1日以降に発生した相続については、遺留分の請求により生じる権利を金銭化し、「遺留分侵害額の請求」という形で請求することになりました。詳しくは「相続法改正9 遺留分制度に関する見直し」を参照してください)。
遺言書の内容を見て、あなたが全く遺産をもらえないような内容である、あるいはもらえるけれども遺産の4分の1に届かないというのであれば、遺言書を見たときから1年以内に、姉に対して遺留分減殺請求通知を出されるといいでしょう。
このとき出す遺留分減殺通知には、《遺留分を侵害されたので、遺留分減殺通知をします》という簡単な内容で十分であり、具体的な請求額などの記載は不要です。
【さらに遺留分を増やす方法・・・特別受益の主張も】
なお、姉が母の生前にかなりの財産をもらっているような場合には、その生前にもらった分を「特別受益」として遺産に持ち戻すという制度があります。
上記の通り、遺留分というのは、遺産のうち法定相続分の半分については取得できるという制度ですが、姉の生前贈与分を「特別受益」として持ち戻すことになると、遺留分計算の元になる遺産額が特別受益の額の分増加する結果、あなたの遺留分額が増加することになります。
この遺留分や特別受益については、この相続ブログの他のQ&Aに詳しく書いておりますので参照されるといいでしょう(相続Q&A №243、Q&A №393参照)。
ただ、遺留分や特別受益については、法律的に難しい分野ですし、最終的には訴訟等の法的手続きが必要になる可能性も高いことから、早期に弁護士に相談、依頼することも視野に入れるといいでしょう。