父は10年前に他界し、今年母が亡くなり、相続が発生しました。
問題は、20数年前に贈与された特別受益です。
「援助してあげるからマンションを購入するように」と父からすすめられ、購入しました。
贈与税のことを考慮し、共同名義にしました。
将来的には、全て私の名義にしてくれることになっていました。
以前に、父が事業で失敗した経験から、父は母の名前を借りて、父の持ち分(3割)を母の名義にしました。
母は専業主婦で働いたことはありません。
その後、買い替えのため、そのマンションを売却し、父の持ち分(母の名義)を贈与されました。
投資目的ではありませんでしたが、バブル時でしたので、購入時の3倍近くで売却し、売却金をそのまま現在住んでいる家の頭金にしました。
名義は私です。 バブル時に購入したため、現在よりもかなり高く、相続時の価格は約半分に下がっています。
以前のマンションは実質、お金を出したのは父(母の遺言書にも父が出費したと記されています)ですが、形式上は母の名義でした。
この場合、両親どちらからの特別受益と考えられますか? (実際、負担してくれたのは父なので、父からの特別受益であると私は主張したいのですが。)
売却して贈与された分(売却額の3割)が特別受益となってしまうのでしょうか? 相続時の評価額が、買い替えたバブル時の半分に下がっていますが、考慮してもらえないのでしょうか?
【共有名義と特別受益】
出資割合で共有名義にしただけでは特別受益に当たりません。
例えば、あなたがマンションを購入する際に父が売買代金の3割を出し、あなたと父が7対3の割合で共有名義をする場合には、これは父からあなたへの特別受益の問題にはなりません。
これは、あなたが、父が援助した代金相当額に対する持ち分を譲り受けたとはいえないからです。
他方、あなたが、父から援助を受けた額より多い割合の共有持分を譲り受けた場合には特別受益の問題となり得ます。
【売買代金の贈与が特別受益になる】
その後、マンションが売却され、その代金のうち、母名義の3割に相当する代金があなたに贈与されたという点では、あなたは金銭の贈与という利益を受けているのですから、特別受益の問題が発生します。
問題は、ご指摘のとおり、誰からの特別受益かという点です。
【売買代金の贈与はだれからの特別受益か?】
仮に、父が母に持分を贈与する意思で名義を変更したならば、その持分は母のものです。
マンションの売却代金のうち母の持分に対応する額については、母からの相続において特別受益として扱われます。
他方、父が、何等かの理由で名目上母の名義にしただけであって母に贈与する意思迄はなかった場合には、この持分はたとえ形式的に母のものであるように見えても、実質的には父のものです。この場合、母の相続において特別受益の問題は生じません。
【特別受益の価額の変動】
仮に特別受益とした場合に、不動産や金銭の価額の変動をどう考えるのかという問題があります。
この点について、贈与を持ち戻す場合に加算すべき贈与の価額は、相続開始時点の現状で評価すると考えられています。
不動産に関して、バブル期に特別受益として不動産をもらった場合にその後の不動産の価額の下落をどのように評価するのかについては様々な考え方があります。
今回の質問は金銭が贈与された事案です。
金銭の場合には、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額で評価することになります。貨幣価値の変動がない限り贈与額をそのまま特別受益として持ち戻すことになるでしょう。