【質問の要旨】
遺産分割協議が成立したと考えていたが、相続人の一人が納得しない(押印していない)。
口頭での遺産分割協議は成立しないか。
【ご質問内容】
はじめて質問させて頂きます。(私は父親の前妻の子供になります)
父親が死亡し、相続人である後妻(子なし)と前妻の子供(3人)で遺産分割協議の話合い(2回)を持ちました。
話合い時には、相続人以外に後妻の親族、父の親族や父の友人もその場におり、1回目の分割協議の内容を書面化したものを一同の前で読み合わせを行い、修正箇所が出てきたので修正した「遺産分割に関する覚書」に相続人全員で署名捺印することを同意した後、その日は解散しました。
後日、後妻からの覚書の返信がないので催促の電話をしたところ、遺産分割協議の内容に納得できないし書面に押印していないので話合いは無効を主張し、弁護士を介在してきました。
覚書に署名捺印されていない場合、後妻の主張は認められるのでしょうか。
申込と承諾で契約は締結されると理解しているのですが本ケースの場合は話合いに参加していた人間の証言とその場で録音していた音声データ(後妻も覚書内容で捺印する旨発言している)証拠があれば後妻の主張を崩すことはできるのでしょうか。
【遺産分割協議は口頭でも有効だが…】
遺産分割協議をする場合には、書面でしなければならないというルールがあるわけではなく、一応は口頭でも有効とされています。
しかし、遺産のような多額の財産分割の合意をする場合、口頭だけで成立するという主張が認められるかといえば、難しいと言わざるを得ません(この点は次項でも記載していますのでご参照ください)。
また、口頭で遺産分割協議が成立していると言っても、銀行や法務局は、遺産分割協議書などがない限り、相続登記にも預貯金の解約・払い戻しにも応じてくれません。
そこで、通常は、それぞれの相続人が何を相続するかという分割内容を記載した書面を作成し、相続人全員が実印を押して印鑑証明書を添付するという厳密な方法をとっているのです。
【口頭で遺産分割協議が成立したことを立証するのはあなた】
あなたが、すでに前に話し合った内容で遺産分割協議が成立したはずだと主張し、後妻さんがそれを認めてくれるのであれば、特に問題はありません。
しかし、本件の場合には、後妻さんが覚書に署名・捺印したものを送り返してこないということは、後妻さんは協議の成立を認めていないということです。
その場合に、口頭で遺産分割協議が成立したことを立証するのはあなたです。
後妻さんも遺産分割内容に同意していたことの証拠としては、音声データが残っているようですが、後妻さんの代理人となった弁護士としては、「そのような方向での話はあったが、合意が成立したと言えるところまではいっていない」と述べ、覚書に署名・捺印をしていない以上、この内容でよいという確定的な意思表示をしたとはいえず、まだ協議は成立していないと主張することはまず間違いのないところでしょう。
あなたとしては、その主張を覆して遺産分割協議を実現するには、裁判所であなたの主張を認めてもらうしかないと思われますが、口頭の合意ということであれば、裁判所も、相続人間で覚書の内容の話し合いがあったこと自体は認めても、確定的に合意が成立したことまでは簡単には認めない可能性が高いと思います。
結局、あなたとしては再度後妻さんと協議をし直し、双方納得の内容の遺産分割協議書に署名・捺印するしかないと思われます。