父を亡くし、相続人は私と認知症の母二人です。
母に後見人を立てずに、代筆で遺産分割を行うことはできるででしょうか?
【ご質問内容】
父が亡くなりました。
相続人は、息子の私と、認知症の母の二人です。
私と母は、相続上、争う関係にあるので、後見人をたてなければならないといわれました。
しかし、息子は私1人なので、母の財産もいずれは息子が引き継ぐことになるし、ましてや母に不利なことは一切する気もありません。
できれば後見人ナシで(代筆で)1次相続、2次相続合計で最も相続税が少なくなるような相続分割をしたいと考えています。
これは、犯罪になるのでしょうか。
誰も、損害を受けないので、見逃されるのでしょうか。
証券会社からの通報で、訴えられるのではないか心配です。
母は、ただいま、病院の療養病棟にて入院中。
身体を動かすこと、意思表示はもちろん、飲み込むことも出来ず、点滴のみにて栄養を得ている状態が半年続いています。
話を理解しているかも不明です。
成年後見人が決まる前に、亡くなってしまう心配もあり、できれば、後見人ナシで相続を済ませたいと考えています。
【成年後見人の選任が必要です】
認知症にも程度がありますが、お母さんが意思表示できないというのであれば、お母さんは遺産分割協議することができません。
本件ご質問のような場合、代筆して作成された遺産分割協議書には、効力はありません。
あなたとしてはお母さんの成年後見人選任の申立をし、家庭裁判所が選任した成年後見人との間で遺産分割協議をする必要があります。
【節税目的でも犯罪が成立してしまう】
本件ご質問のような場合に、あなたがお母さんの署名捺印を代行することは認められません。
もし、お母さんの代筆をした場合、有印私文書偽造等の犯罪(末尾記載の刑法第159条、161条参照)になる場合もありえます。
なお、節税という理由があっても犯罪が成立することに違いはありません。
節税をはかる必要があるのなら、成年後見人の選任申立をし、その後見人との間で遺産分割協議し、その際、節税の必要性を説明して、成年後見人の了解を取りつける必要があります。
【特別代理人が選任される場合】
被後見人がお母さんの場合、息子さんが成年後見人になることもあります。
しかし、今回のように遺産問題があり、利害対立するような場合には、裁判所は遺産とは関係のない第三者を後見人に選任することが多いです。
もし、仮にあなたが後見人に選任された場合でも、遺産分割に関する限り、あなたはお母さんと利害が対立しますので、裁判所に特別代理人を選任申立をする必要があります。
この場合、あなたは裁判所が選任した特別代理人との間で遺産分割協議をすることになります。
〔参照条文〕
刑法
159条1項(有印私文書偽造罪)
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
161条1項(偽造私文書行使罪)
前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。