子どももおらず奥さんにも先立たれた一人暮らしのおじを近くに住んでいた兄(おじからみたら甥)がいろいろ面倒をみていました。
ここ何年かはがんにかかり病院に連れて行ったりもしていました。
ところが以前からお金に困っていた別の甥が自分が引き取って面倒をみると連れて行ってしまったのです。
それから間もなくおじも亡くなり、保険金の受け取りも当初は兄になっていたのですが、その後どうなったかわかりません。
おじは最近では少し認知症の症状もあったらしいので保険の受取人も変えられてしまっていて、もしかしたら保険会社にお金を借りていたかもしれません。
このまま兄は泣き寝入りをしないといけないのでしょうか。
おじの兄弟はみんな亡くなっているのでむしろ相続放棄をした方がいいのでしょうか。
記載内容 生命保険の受取人変更 生命保険の調査 相続放棄 期間延長
【まず、相続放棄をするべきかを考える】
今回の問題について、どのように対処していくべきかを考えていきます。
まず、相続放棄をするかどうかが問題になります。
ただ、そのためには、遺産(資産)と被相続人の債務の内容を確認し、それを比較して判断することが必要です。
これについてはブログQ&A №431に詳しく記載しておりますが、そのポイントは次のとおりです。
① 遺産(資産)と債務の調査をする。
② 債務の方が多い場合には相続放棄の申し出を家庭裁判所にする。
③ 調査に時間がかかる場合には、期間延長(伸長願い)を裁判所に提出する。
【保険会社からの借り入れについて】
保険会社から借り入れがあるかもしれないということですが、保険会社が保険金額あるいは保険の解約返戻金を超える貸し付けをすることはありません。
したがって、保険会社からの借入金債務が残ることはまず考えられませんので、この点は安心されるといいでしょう。
【生命保険は、原則、遺産には入らない】
生命保険の保険金は原則として遺産には入らないというのが最高裁の判例です(この点はブログQ&A №298をご参照ください)。
ただ、遺産が少なく、生命保険しかない、あるいは遺産額の60%程度を超えるということであれば、遺産とされる可能性もあります。
【保険契約の確認】
保険契約の内容はどういうものか、受取人の変更がいつなされ、保険金をいつ、誰が受け取ったかなどについては、法定相続人の立場で保険会社に確認されるといいでしょう(その際、戸籍謄本や除籍謄本が必要になりますが、この点は保険会社により要求する書類が異なりますので、予め、確認されるといいでしょう)。
もし、どこの保険会社との契約かがわからない場合には、弁護士に依頼して、弁護士会照会という手続きで保険協会に問い合わせすることもできます。
この場合には保険協会に加入している約50社前後の保険会社から、契約の有無や内容、支払い先等に関する回答が来ることになります。
【意思能力がないと受取人変更はできない】
保険契約の受取人変更が有効になるためには、その変更をする時点で契約者である叔父さんが判断能力(意思能力)を有していることが必要です。
質問では、《少し認知症》があったと記載されていますが、その程度がわかりません。
認知症でも、軽い場合(例えば長谷川式認知スケール30点満点で15点以上の場合。なお、《【コラム】意思能力と長谷川式認知スケールに関する判例の紹介》に過去の裁判例を整理しておりますので、ご参照ください)には意思能力があるとされることが多いようです。
もし、おじさんが入院していたり、介護施設に入っていた場合などは、上記長谷川式認知スケール等の知的能力に関する検査がされている可能性があります。
これらの病院や施設に確認し、検査がされているなら、その結果を取り寄せ、意思能力の有無を判断されるといいでしょう。
【調査に時間がかかる場合には伸長願いを出す】
相続放棄は相続開始時点から3ケ月以内に家庭裁判所に申し出(申述)する必要があります。
しかし、上記の各点についての調査をするには時間がかかります。
そのため、とりあえずは裁判所に相続放棄申述の期間延長願いを出しておくといいでしょう。
通常は、3ケ月の延長ならほぼ無条件で出ますし、その後も事情によっては同様の期間延長してくれる場合もあります。
その伸長された期間を利用して、調査をした上で、相続放棄をするかどうかの最終決断をされるといいでしょう。